23. 炒飯テイクアウト?
「あああぁぁぁ……」
目の前にはちょっとレトロなスクーター。乗っているものは出前箱。そして手の中にはスクーターの鍵。
「前々から出前を再開してほしいとは言われてたんだがな。娘が嫁に行っちまったもんで」
とスクーターをメンテしている大将。ジョンが興味深々で見てる。人手が足りないからできなかったと……。
「いやいやいや、無理ですけど!?」
まずこの世界の私は免許を持ってない。前世では就活もあったし普通自動車免許持ってたけどペーパードライバーだった。仮免は一回落ちた。というかそもそも。
「なんで普通にスクーターが存在してるのよ!!」
「大陸は技術が発展していると言ったでしょう。あなたの記憶力はどうなっているのですか」
セシリオが馬鹿にするように肩をすくめる。
なんでも港町や皇都付近は景観条例のために禁止されてるだけで地方には車……火車もあるのだとか。貿易の要として全ての大陸の情報や技術が入り、そして戦乱の世に妖力や兵器開発が進んだ結果だという。これゲームの制作陣は2とか3への展開を考えてたんだろうな。
「ざっとこんなもんか。喚いてねえで試運転してみろや」
「無理ですって。免許が……」
「あ? 何言ってんだ?」
ゲーム内に免許なんてものはない。一番断りやすい理由を失った。
はは、ははは、その肉球でレンチ持てるの凄いですね、大将。ジョン、いたずらしないの。
「ちょっと待ってろ今妖力札を……」
「この人は魔力を持っていますから、必要ありませんよ。経費の無駄です」
「無駄ってあんたね」
妖力札というのは人間や獣人が動力機械を使うのに必要な魔法道具。大将はパンダの獣人だから厨房にも使われている。魔力と妖力は実質同じものらしく、私は貴族出身で魔力のある人間だから必要ないらしい。しぶしぶ乗ってみたら普通に運転できた。
いやいや、でも次にコミュ障がある。もし相手が人間だった場合、出前なんかしようもんならビビり散らかして、お客さんの前で出前箱を落とすことだろう。謝罪確定。
「ああ、基本出前の客は妖怪だ。心配しなくていいが、吹っ飛ばすなよ」
チンピラ火鼠の件は不可抗力というかなんというか……。暴力的認定しないでほしい。
コミュ障も封じられたけど、まだよ。一番出前係を任せてはいけない理由がある。
「私方向音痴なんですけども」
魔王城スターターキットもらっておいて、初日に迷って遅刻したことなんてもう誰も覚えてないだろうけど。なんなら帰りも迷ったけど。同じ場所を通っても気づくのは三……いや四回目以降。方向感覚はないし建物の記憶とかもない。ゲーム内ですら迷う始末。ミニマップがなければクリアできなかった。
「あー……そりゃ不味いな」
「あなたって人は……」
この街、特に裏路地通りは細い道が多くて迷いやすい。そんなところに私を放り込めば一生帰ってこれないだろう。
勝った。龍黒会への殴り込みは別の方法を考えよう。胸をなでおろ……したかった。
「あれ、ダイはん。スクーター出して、なにしてはるん?」
店先にぬるっと現れたは白露さん。相変わらず胡散臭い。大将から話を聞きだすと火鼠をぶっ飛ばしたことを笑った。
「ははは。そら災難やったなぁ」
こちとらどんぶりを頭にかぶったというのに。ジョンも一緒になって笑うんじゃない。しばくわよ。
「それ、ちょい貸してくれる?」
ひとしきり笑い転げた後、長い爪で指さされたのは魔王の指輪を通したネックレス。色んなときに私の身を守ってくれた相棒。
煙管から紫煙を吹くとまとわりついて、魔王の赤い魔力がバチっと弾けた。白露さんが驚いたように目を細める。元から糸目なのに。けどそれも一瞬ですぐにいつもの胡散臭い笑みに戻った。
「うん、これで迷わへんで~」
元からあった力を利用して、各家にある呪詛返しの札……つまり住所に反応して光って行き先を教えてくれるらしい。
随分と高度な妖術だとか、これで安心だとか。余計なことをしてくれた。地面にズシャァァァと崩れ落ちた。
「はい、オイラ大熊猫軒です! 出前ですか?」
松の内が明けるということで、あけましておめでとうございます。昨年はご愛読ありがとうございました。今年もよろしくお願いいたします。
次回は来週の平日はじめのお昼頃更新です。




