18. こんなのってアリ?
「誰だぁてめえら」
パンダ大将、厳つい。なんか葉巻咥えてるし、グラサンだし。エプロンはつけてるけど、基本裸だし。でもなんかパンダから怖くないような気もして、結果黙ることしかできない。
「え!? 白黒の熊!?」
……私はたまに、ジョンが小物なのか大物なのか、よくわからなくなる。この雰囲気でアホなこと言えるって。
「別に間違いじゃあねえが。坊主、俺の種族を見るのは初めてか」
「オイラ初めて!」
「そうかそうか」
ほっと胸を撫で下ろす。案外子供とか馬鹿に優しい人らしい。助かった。ジョンとは全く別方向に物怖じしていないセシリオが一歩前に出る。
「私たちは竜のツテで参りました」
「……ああ、今日だったのか」
なんか通じた。竜ってことは……もしかして先代魔王、竜のおじいさんの知り合いとか?
「とりあえず、ボクが信用に値する妖怪やと証明できたかいなあ?」
「……礼は言っておきます」
「そらめっそうな」
相変わらず笑顔を崩さない白露さんと、いまだに警戒心バリバリなセシリオ。あれだろうか、自分が元裏切りキャラだからこその警戒心なのだろうか。
「まあいい、まずは店に入れ。そんな素人感丸出しだと危ねえ」
言われるがままにガラス製のドアを押して入ると、油と香辛料の匂いが鼻をくすぐる。店の中は町中華の雰囲気で、ちらほら常連らしきお客さんがいた。何より……。
「中華鍋だわ!! 重そう!! 鉄製!!」
いつか欲しいと思って買えずに死んだ、大きい鉄製の丸底鍋。幅広い料理もこれ一つでできるまさに万能。これは片手用だから北京鍋だろうか。
「な、なんなんだ……この小娘は」
「狂った生贄です」
「元、が抜けてるわよ!」
カウンター席越しに厨房を舐め回すように観察する私と、美味しそうな匂いに暴れているジョン。あ、セシリオがとっ捕まえてバラバラにした。
「あー、腹減ってるならなんか作るぞ」
「え!? いいんですか!?」
「食べるー!!」
パンダ大将がエプロンを締め直して、カウンターの裏へ。大きな肉球を洗って、器用に食材を取り出す。卵、チャーシュー、ご飯、ネギ……グリーンピーズも。チャーシューを細かく刻んで……と思ったらもう中華鍋が揺れている。卵と米、具材が絡み、そこにおそらく溶かしたウェイパーが投入。高火力でジャッジャッと炒められて、あっという間に完成。手際が良すぎてレシピを盗む間もない。なんて速さ、なんていい匂い。
「あいよ」
「「いただきます!」」
なんてパラパラで、旨みがしっかりなの!? 家庭用では足りない、この高火力で炒めた感じ。細かいチャーシューは沁みるし、グリーンピースがチェイサーのように油っぽさを緩和してくれていい味出してる。これは美味しさが口に残る!
「うめぇだろ」
「うめえ!!」
「とてつもなくうめぇです」
「そりゃそうだ。俺が作ってんだからなぁ!」
パンダ大将が機嫌良さそうにマグカップを煽る。ん? マグカップの中に……。
「ビール!?」
「おっ、気づいちまったか」
ガハハと笑うパンダ大将。ビールがあることにも驚きだけど、まさか酔っ払いながら店をやってるとは……。
「オラァ金勘定だけは間違えないから安心しろ。この程度なら景気付けってもんだ」
「見慣れるさかい新鮮な反応やなぁ」
ちゃっかり一緒に食べてた白露さん。しれっと退散しようとして捕まってる。「お前は払え」「忘れとっただけどすえー」とか言ってる。
「それに、勘定はそこの兄ちゃんがやってくれるんだろ」
「ええ。我々はここでお世話になるのですから。その分働くのは当たり前というものです」
「俺も、竜さんには昔世話になったからな」
そういえば、確か表向きは食堂係としての出張で、現地で協力者をとか言ってたけど。協力者、まさかのパンダだった。
とはいえ食堂だし、私にとってこれ以上いい環境はない! ということは私はやっぱり厨房で……。
「貴女には接客を担当してもらいます」
「え……」
む、無理。私に社交性はない。魔族とか妖怪なら、きっとまだマシだけど、この国には人間がいるし。
「じゃあ! オイラ味見がか……」
「っ接客はジョンがやるわ!!」
ジョンの目が飛び出る。
このアホを連れてしまった意味があったかもしれない。




