17. 白黒の……
ごくり、と生唾を飲む。
「薬屋って一体……何?」
「あっは」
白露さんが笑い、セシリオが眉間を抑える。
いや、ドラッグストアとか薬局と違うのはわかるけど。薬屋なんて前世どころかこの世界でも聞いたことなかったっていうか。
なんか危ないやつじゃないでしょうね!?
「数多の生薬から漢方薬まで、単体で売ることあったら、オーダーメイドで調合もするんやで。仕事道具はこの木箱のみ」
白露さんは木箱を背中から下ろし、開けて見せくれる。小さな箱みたいな引き出しがあって、中には乾いた草とか謎の木の皮とかが綺麗に並べられている。真ん中には道具が入っていて……なにこの腹筋ローラーみたいなやつ。前世で鍛えようとして三日で諦めたけど。
「この道具は薬研。薬をこもうするためのやつやわぁ」
「こもうって細かくってこと? ……これは乳鉢?」
なんかおもちゃ箱みたいで楽しい。あと真面目そう。怖い薬じゃなかった。薬膳鍋とか興味があるし、いつか食べてみたかったよね。
ワクワクしていたところで、セシリオの大きいため息が聞こえる。
「貴方、警戒心というものを忘れてきたのでは?」
「あっ」
「気になってもらえて嬉しいわぁ」
でも、私のコミュ障センサーが発動しないってことは、白露さんは人間じゃないってわけで。人間よりはまだ魔族とか妖怪の方が信用できるっていうか。
「それで、目的は?」
「いやぁ、単なる人助け。こないな商売やさかい、人とのご縁は大事なんやわぁ。薬屋、夢見堂をご贔屓に〜」
「今商品を買えば、その縁は切れますか?」
人が人間不信を拗らせている間に、はんなりと敬語が凄いばちばちやっていた。恩人ならぬ恩妖に対してその態度はないでしょうよ。
「そないな酷いこと言わんとおくれやっしゃ」
「貴方が怪しくない保証はどこにもありませんから」
まあ、確かにそう。今回私たちは魔界の代表として来てるわけだし、勝手な行動はできない。ジョンの阿呆はもう制御不能でしょうがないとしても。
「……せやったら証明したらええんかいな?」
でも、白露さんはニコニコと笑ったまま。ここまで怪しまれてるのに……なんだか少しゾワっとする。これが妖怪の恐ろしさか。というかなんの妖怪なんだろう。あんまり詳しくないからなぁ。
「あんた達向かう場所はどこ?」
「話すとでも?」
「案内したる。こう見えてもボクはここら辺で顔知れてるさかいな。みんな、僕が怪しい妖怪とちがうと教えてくれるはずや」
何があっても引かないところは商人魂ってところなのだろうか。
「はぁ……大熊猫軒をご存知で?」
「もちろん。疑り深い兄さん、ダイはんならより深い馴染みやわぁ」
おおくまねこけん……? ん?
「もう狭いとこやだーー!」
ガタガタと箱が揺れる。まったく、少しもじっとしていられないんだから。
「棺桶とか骨壷とか、あんたの本来いるべき場所は狭いのよ?」
「えぇー!? じゃあオイラ一生エリザベス様の下僕でいるぅーー!」
「もう一生終えてるからその姿になってんでしょうが」
こうなったらもう仕方がない。さっきの検査官さんに見つからないようコソコソと服を着せて、早く街の中へ。
青空に赤い提灯が揺れる。赤と緑の装飾が施された門は荘厳で、通りに植えてある柳の木がゆらゆらと揺れている。その下では狐のお姉さん達がお茶を飲んでいた。
「綺麗……」
「すごっ!!」
前世では旅行どころか中華街も行ったことないから、かなり新鮮だった。
大通りを抜けると結構複雑な道だけど、白露さんはそれを迷いなく抜けていく。
「ねぇ、これまずいやつ?」
「……いいえ、地図通りです。少しでも間違えればそれを理由に切るつもりだったのですが」
「物騒なこと言わないでよ」
小声でコソコソ話している間に、一軒のお店が見えてくる。小さくも歴史を感じさせる建物だ。
「ダイはん、お客様連れてきたわぁ」
「お客様だぁ?」
お店の中から低い声がする。看板を読むと……。
「定食屋、大熊猫軒? って、え?」
出て来たのは、大きな白黒の熊。つまり、ジャイアントパンダだった。




