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8. 芋洗い令嬢に無茶ぶり



「初日から遅刻するなんて、さすがは人間だね!」

「すみません……」


 オークのおばさまが仁王立ちで睨んでくる。後ろの窓からのおばさま方のじっとりとした視線が恐ろしい。


 初日から順風満帆、というのはゲームやらフィクションだけなのだと、改めて思い知らされた。

 当然ながら目覚まし時計や起こしてくれるメイドなんてものはなく、部屋の時計を見て驚いた時にはすでに時遅し。使い方がわからないまま冷水のシャワーを浴びて、クローゼットの中にあった服を着て。マップ片手に飛び出した時にはすでに就業時間。焦ってぶつけた足の小指やら頭が痛い。


「ボケっと突っ立ってないで、さっさとエプロンつけて三角巾被って! 人間はこんなこともわからないのかい?」

「すみませんっ!」


 ひえええええええ。

 食堂係の休憩室に怒鳴り声が響く。ズケズケ言ってくれるから人間社会よりはマシだけれど、普通に怖い。明るいオレンジ色のエプロンが、日曜日の夕暮れに思える。終わりだ。


「ちんたらしてんじゃないよ! 手ぇ洗い終わったんなら、こっちだ」


 そうしてそのまま荷受け室の隣、洗浄室へ案内された。昨日来たし、マニュアルに書いてあったから一応知っている。泥付きを洗ったり、仕分けをする場所。


「これ今日届いた分、全部おやり。あとでチェックするからね」

「……っはい!」



 一日目は散々だった。まず洗浄室から出れなかった。やっと終わった昼過ぎには永遠に洗い物。夜は居残り掃除。最初に怒鳴ってきた方ことマチルダさんは怖いし、ほかのおばさま方にも無視されたまま。早くも心が折れそう。おいしいまかないだけが支えだった。あと帰り際にチラッとモフモフな服を見た。


 ……二日目は目も当てられなかった。いや、寝坊はしなかった、のだけれども。響く怒声、取れない泥。事ある毎に人間だからと責められる。しかも仕事が長引いてまかないが冷めてしまった。温かい料理が食堂の利点なのに。明日のまかないに期待するしかない。また帰り際に黒髪のロン毛を見かけた。


 …………三日目は無の境地。怒鳴られても、重箱の隅をほじくるように文句を言われても、ただ返事をして働く。新人が怒られるのは当たり前だし、最初から嫌われてるって楽に思えてきた。こっちから話しかけなくても向こうから来てくれるし。まかないは、日替わり定食の雷魚のバターソテー。今日も帰り際に羊の角みたいなのが見えた。


 そんなこんなで、揉まれる日々の中、気づけばもう一週間が経っていた。

 ああ、日が経つほどに魔王の優しさが身に染みる。話は聞いてくれたし質問にも答えてくれたし、色々考えて用意してくれたし。部屋や服の用意をありがとうございました! サイズぴったりでした!



「おはようございます」


 今日も今日とて泥付き野菜を洗っていると、配膳カウンターの方から、あの怖ーいマチルダさんの困ったような声がした。


「いや、でも……」

「飽きた。明日は別のメニューがほしい」


 こっそり窓から覗くと、カウンターの向こうに悪魔のような角が見えた。よく見えないけれど、ああこれが噂に聞く常連さんか。


「日替わり定食もありますし……」

「いくら日替わりでもこれは飽きる」


 定休日以外毎日お昼に利用してくれる人で、おばさま方も強く出れないおじいさん。

 まあ、確かに、飽きるのもわかるかもしれない。現代的な機材がある割に、調理がワンパターン。定食のメイン……肉や魚はほとんど焼いてしまうし、一品料理もあんまりない。

 学食とかだとやっぱり……。


 ゲッ!?


 マチルダさんと、目が、合ってしまった。何を言われる? 「見てんじゃないよ、人間が!」とか? それとも残ってる仕事を数えて、「仕事が遅い! これだから人間は!」だったり……。

 そう考えている間にもドスドスと足音を響かせて、マチルダさんがやってくる。バァンと洗浄室のドアが開いた。


「そんな見てるくらいなら、どうにかできるんだろうねぇ?」


 ギロリと睨まれる。

 な、なにを考えているんだろう。今まで厨房に入れてくれなかったのに、こんな急に……ん?


「いいんですか!?」


 新メニューを明日までに考えて、作れ。つまり、料理が、できる!!!

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