16. とっても胡散臭い
「もういいわ、あんたここで脱ぎなさい」
「えぇ!? そんな、エリザベス様のえっ」
いつも心臓丸見えにさせといて何言ってるんだか。
船に乗せたままにして帰したいけど、このアホが荷物に骨なんて混ぜたからそれも無理。てことはもう誤魔化すしかない。
「わああああ、ちょ、見ないでぇ!! オイラのオイラがぁ!」
「恥骨以外何も見えないわよ! いいから大人しくしなさい!」
とにかく脱がす。ズボンとか靴とか全部。骨が微妙に茶色っぽいというか黄ばんでるというか……どうせ大雑把に洗ってるんだろうなこいつ。今度丸洗いしてやろう。
「はい、バラバラになって」
「えぇ……オイラ、恥ずかし」
「そ・れ・と・も、殴られてバラバラになりたいの?」
「ひえっ」
あとはこの骨をそこら辺にあった箱に詰める。ただの人骨です。生きてません。
「角は……箱の底に差しときましょう」
ガァンと突き刺して完成。なんか
「雑!! 雑ですって!!」
「次喋ったらあんたの命はないからね」
「っ!! っ!!」
これで検査通らなかったら……もう知らない。他人ならぬ他骨です。
「早く降りないと怪しまれますよ」
「え、ええ」
セシリオから入港証を渡されて、船を降りる。降りた先にいる検査員に渡し……渡……。
セシリオの腕をグッと掴み、強制的に耳を傾けさせる。ちょ、屈んでってば。私はコソコソ話がしたいのよ。
「なんですか」
「ねぇ、あれ人間よね!?」
「それ以外何に見えるんです」
「無理なんだけれど!」
「あなたも人間でしょう、ほら早く行ってきてください」
私がここにくる羽目になったのはあんたのせいなのに!
恨み言を言ったとしても、代表が私なことに変わりはなく。仕方なく、ほんと仕方なくジリジリとにじり寄って、バッと差し出す。
「にゅ、入港証でしゅ」
久々の対人戦で、どもって舌を噛んだ。セシリオがやれやれって感じで顔に手を当ててる。
魔族に囲まれて快適に過ごしてたおかげで、コミュ障すぎて破滅したこと忘れてた。
検査員さんが桟橋に置かれた荷物の山をキッと睨む。
「荷物を検めさせてもらう」
「は、はい、どうぞ……」
やばい、怪しまれてる。なんか荷物一個一個丁寧に調べ始めちゃってる。後ろめたいことがあるわけじゃないんです。いや、後ろめたいんですけど、そうじゃなくて。
内心あわあわしているうちに、ついにジョンの木箱に辿り着く。中を開いて……。
「なんだ、これは!?」
やっぱり驚かれてしまった。そうよね、人骨はおかしいわよね!! や、やばいどうしよう。
「すみません、それは……」
セシリオが前に出てくるより先に、誰かが横から現れる。
「そないに声荒げてどないしたん。ってああ、そらお客はんのと違う。ボクの生薬の材料やわぁ。小鬼の骨は妖力の回復にええらしゅうて、わざわざ東の国からなぁ。あい、許可証」
確かに他の船も停泊していて、荷物が混じっても不思議ではない。けど、流石に……と思ったところで、凄みに気づく。検査員さんは乱雑に触ったのを怒ったのかと思ったらしく、丁寧に箱に戻していた。
「驚かしてかんにんえ」
さっきまで威圧していた謎の人が、途端にニッコリ笑う。
黒く長い三つ編みに白のメッシュが入った髪に、赤い紐みたいなピアスが映える。チャイナっぽい服を着ていて、木箱を背負ってて。何より大きな丸いサングラスをかけていてもわかる、糸目!!!
胡散臭い。顔がいい。怪しすぎる。なぜか京都弁。もしかして続編が出てて、裏切り者キャラか何かだったり? 中古ショップで買ったから知らないけど。
ぐるぐる考えている間に、検査が終わる。
「行っていいぞ」
「お、お仕事ご苦労様ですっ!」
検査員の人は、なんだただの会話下手か……という哀れみの目で私を一瞥して去っていった。はい、その通りでございます。
「……先ほどは助かりました。が、一体なんのご用件で?」
ぼけぇっとしている私の前に、セシリオが出てくる。
そうだ。安心してる場合じゃない。だって、この人には私たちを助ける理由がない。
「ボクは白露。東西にまたがる、しがない薬屋。そやさかい、あんたたちのこともよう知ってるんやわぁ」
ニコリと笑うその笑みが、やっぱりとっても胡散臭い。
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次回は来週の平日はじめのお昼頃更新です。




