15. 大馬鹿者め!!
「麻袋ってなんかチクチクする〜」
なんかおかしいなとは思っていた。
妙に聞き分け良かったし、馬車がゴトゴト揺れるたびにカランとかカツンだとか軽くていい音がする。極め付けにはこのアホな声だ。
「肌なんてないでしょ……この大馬鹿スケルトンがっっ!!」
馬車を一旦止めてもらって、一番上の麻袋をぶん投げる。ジョンがバラバラになって荷物の中に紛れ込んでいた。
もうその場で置き去りにしようとしたけど、なんでも骨がそこに一本でもあればその場で元に戻れるらしく……。
「無駄に凄い能力っ……」
「えへへ〜。それほどでもある〜」
「褒めてないからっ!」
わざわざ荷馬車の方の、それも取り出しづらい荷物の中に指の骨一本入れといたらしい。置いてこうにも置いてけないっ!
救いようがない阿呆なクセにどうして悪知恵は働くのか。
「あなたはまた……監督不行届ですね」
「デジャヴ!!」
「出航の時間がありますから、もう行きますよ」
セシリオの鋭い視線に頭をかかえた。
とりあえずもう一度麻袋の中に入れ直しておく。ごちゃごちゃ言ってるけど、罰!!
ジョンの馬鹿をどうしようかと考えているうちに、悪魔村や魔族魔法学園の横を通り過ぎて、窓から潮の香りがしてくる。
「つきましたよ。ここが最果ての入江です」
目の前に広がるのは真っ青……じゃなくてドス黒い海。なんか空曇ってるし。雷鳴ってるし。
え、こんなので出航できるわけなくない? 何考えてんの? 魔族ジョーク?
「さっさと乗り込みま……」
「っ無理無理無理無理無理。何言ってんのあんた」
平然としているセシリオの服を掴む。凄くめんどくさそうな顔をされた。
「最果ての入江は常にこの状態です。特に問題はありませんからご安心を」
「あんたが壊した塔の効果はどうなってんのよ!?」
「ここは範囲外なようですね」
魔界の天気が恐ろしいのはよく知ってる。魔王城も実際一年前までは常に曇りか雨か雷雨かって感じだった。でもセシリオが世界滅亡を企てた上に聖女が世界の枷から外れた結果、エンドコンテンツのダンジョンが倒壊。曇りは晴れて四季が訪れ、研かつ部が日々原因解明に勤しんでいる。
「わーい、オイラ一番乗り〜!」
全く気にせずにはしゃぐジョンに本日二回目の頭を抱え、船に乗り込んだ。帆が張られ、碇が巻き上げられて。
「うぇぇ、気持ち悪ぃ」
「お、大きい声出さないでください」
「あんたたちね……」
いざ出航すればグロッキーな二人。ジョンなんて内臓ないでしょ。見ているとこっちも気持ち悪い気がしてくるから、放っておいて海を見る。魔界の領域との境目には雲が晴れていて綺麗な青い海。同行人以外は平和……。
「っクラーケンだ!!」
なんて思っていた時期が私にもありました。指先が触れるような距離で、巨大なイカの目がギョロリ。
これだけ大きければ、A定食のイカフライは余裕どころか、本日のパスタにも使えそう。いや、それでも余るだろうから冷凍して……。
現実逃避が始まったところで、船を絡みとるゲソが切れる。
「フン」
「「おおー!!」」
セシリオが飛んで剣を抜き、一刀両断。ジョンと二人してパチパチと拍手。お見事。
なんか船に足をつけずに飛んでいればいいとわかったらしく、ちょっと回復してきたセシリオとイカの行く末について話していると、突然にゅるりと掴まれる。
「って、ええ!?」
あっという間に地面が、船が遠くに。二本しか残っていないゲソで捕えられてしまっていた。
食材にする話してたから!? ちょっと待ってそんなバターで炒めて自家製マヨネーズでなんて食べないから勘弁し……。
「あ」
赤い光線がクラーケンのゲソを射抜く。首元にかけていたリングチェーン……魔王から預かっている指輪が守ってくれた。けど。
「ぎゃあああああ!!」
「……煩いですね」
コントのように落ちる私を、セシリオが翼で飛んでキャッチしてくれる。無事に地面に足がついた。
「これ、私を信用してるのかしてないのかどちらなのでしょうか」
「多分信頼はしてるわよ。ただ過保護なだけで」
あのセシリオに襲われた時に守護の力を使い果たしてしまったらしく、魔王が新しく力を込めてくれたんだけど……魔王パワー凄いわ。クラーケンを一発KO。
「おや……大陸が見えてきましたね」
「でっっっか。あと思ったより近い!」
「でなければあんなに輸入品を使えませんよ」
そうこうしている間に無事到着。碇が降ろされて、私たちも降りる準備をする。
さて、出張頑張ります……か……。
「問題はこれをどうやって検査に通すかですね。下手したら国際問題です」
当の大馬鹿者は呑気にカモメに突かれていた。




