12. もうお役御免!?
「これで、よし!」
【新メニュー おやつ始めました】
食堂前の看板にチョークで書く。下のイラストはマチルダさんが描いたものだ。
記念すべき一回目は、試作でも作ったカップケーキになった。プレーンとチーズ、季節限定のさくらんぼ。この季節限定がミソだ。つい買っちゃうに決まってるのもあって、大量に作っておいた。
「ふふふ……ふーっふっふっふ!」
「悪人面してないで仕事してください」
「あだっ……それを言うなら悪役令嬢面でしょうよ」
「はい?」
一人でニマニマしていると、後ろからセシリオが献立表の紙を丸めたのでこづいてくる。なんて生意気な後輩。
「あんたの腕にかかってるんだからね」
「この私が貴女のようなヘマはしませんよ」
「いちいちムカつくこと言うんだから……」
でもまあ、ずいぶんと上達した。どうやら寮でも自分で練習してたみたいで、さっくりにイラつくセシリオ君はもういなかった。真面目か。
マチルダさんの「おしゃべりしてんじゃないよ!」の怒鳴り声で急いで厨房に戻る。スイーツはあくまでおまけ。私たちの仕事は、働いている魔族たちのごはんを作ること。
「今行きまーす!」
というわけで、今日も戦場に立つ。壁掛け時計がお昼を知らせて、一番乗りの竜のおじいさんにB定食の雷魚の味噌煮込みを渡す。二番手のジョンはA定食の伯爵芋のコロッケ(冥界牛入り)を選んだ。
ひとまずお昼の流れが落ち着き、まずカップケーキに食いついたのは、久々に現れたバジリスクだった。どうやら研究がひと段落したらしい。
「あらぁ、これいいじゃない。このチーズとか、つまみにもできそうだわぁ」
「え? つまみ?」
「ワインとかに合いそうねぇ。せっかくうまくいったんだから、今日は呑むのよぉ」
いや素面であの乱れっぷりなんだからお酒はやめた方が……と思ったけど、そういえばうわばみって大蛇のことらしいし……。
「バジリスクって、もしかして酔っ払わないの?」
「当たり前よぉ、バジリスクなんだから」
【悲報】雰囲気だけで悪酔いするタイプだった。水も効かないってタチが悪い。四天王飲み会とかあっても絶対行かない。
「ま、まあ。うん、お酒にも合うと思うわ」
バジリスクが上機嫌で買っていったと思ったら、今度はオルトロスが寄ってくる。
「ふむ、魔王様に買って帰ろう」
「姉御が買ってたんだ。間違いねーぜェ」
しかしどうやら自分たちで食べるのではなく、お土産。……なんだろう、棒持って帰る忠犬みたいな。実際犬なんだけど。
と今度は芋づる式でオーガのお兄さんたちがやってくる。コロッケ定食ごはん大盛り、しかもコロッケ追加までしておいてまだ入るとは。
「期間限定だってよ」
「えー、まじか迷うわーー」
「俺買っちゃおうかな」
しかもバジリスクより女子してる。食いつくのそっち?
そして、奥でどんよりしている彼は一体。よくよく見ると頬にでっかい手型ついてない?
「何どうしたのその顔」
「ちょっと彼女と喧嘩しちゃって……」
なんとも反応しづらい。なんかワイワイこいつが悪いとか言ってるし。ビンタされるほどって……何をしでかしたのよ。
「あー、えっと、お詫びの品にでも買ってけば?」
「そうします」
みんな十個単位で買っていくおかげで、みるみる在庫が減っていった。その後も研究員のお姉さんが差し入れに買っていったり、財務部の秘書さんが甘い香りに誘われてふらふらとやってきた。
「う、売り切れぇ?」
あんなに作ったカップケーキがまさかの一個もなし。魔王城におやつって、もしかしてすごく需要があったのでは?
研かつ部にお弁当の容器を取りにいったら、なんか凄い和んでたし。魔王城自体がちょっとなんか優しい。
おやつ作戦は続行。セシリオは毎日お菓子を作り続け……。
「で、なんでこんなプロ級になってるわけ?」
「色々調べましたからね」
「完璧主義か!!」
サラッと私の腕を抜いていた。最初の頃色々作ってると思ったら、どれが一番コストパフォーマンスがいいのか試していたらしく、予算管理も完璧。
「ふん、まあ穀潰しじゃないようで良かったよ」
最初は刺々しかったマチルダさんたちの雰囲気も、徐々に穏やかに。
……もしかして、私お役御免?




