10. ふんわりほわほわ
「見なさい!! 先輩の優しさを!!」
バーンと見せるは、手作りカップ。まあマグカップとかでも作れるけど……大量カップケーキには絶対必要なもの。折り紙とかそんなに得意じゃないんだけど……頑張った。力作。
「……その容器に流せばいいのですね。どのくらいですか?」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。そんな塩対応する? 普通」
「それで寝ていなくておかしなテンションなのは分かりましたけど、私には関係ありませんし」
「いや確かにちょっと深夜テンションだけども」
そこまで見抜いておいて、どうしてそんな薄い反応なのよ。血も涙もない魔王なの? いや魔王は別にいるし、その魔王凄く優しいお人好しだけど。
「そもそも、貴女の従者のせいですよね?」
グサッ。それはその、ジョンのアホのせいで。
「ということは監督不行届……つまりあなたのせいです」
グサグサッ。たしかに私の下僕で、プリンあげられなかったからだけど。
「私に最大限協力するのは当然では?」
……ガハッ。
もうやめて、エリザベスのライフはもうゼロよ。
こっちが正論でパンチされているのを見て、ニヤニヤしないで。教えてあげないわよ。教えるけど。
「それで、どのくらいまで入れるんです?」
「あんまり入れすぎると火が通りづらいから……せいぜい七分目までね」
「はい」
天板に並べたカップにきっちり七分目まで入れるセシリオ。誰がどう見ても七分目。きっちりしすぎて逆に怖い。
その間に私はスチコンの余熱。ここら辺は慣れてくれば自分で段取りができるはず。
「……少し余ったのですが」
不服そうに見せつけられたボウルには、ほんの少しの液が。まあ手作りカップだから、多少の誤差はあるわよね。
「そのくらいなら最後のカップに入れちゃって」
「はぁ?」
「別に火が通りづらいだけで、焼けないわけじゃないし。逆に良いものが見れるかもしれないわよ」
完璧主義のセシリオがなんかブツブツ言っているけど聞こえない。確かに計量は大事だけど、こういう時の柔軟性と思い切りだって必要なんだから。
余熱が終わったところでスチコンの中に移動させて。
「よし、いれたわね……」
スイッチオン!
ああ、この時間。お菓子作りで一番大好きなところ。次に好きなのが甘い匂いが漂ってくる瞬間。
でも……。
「表情が騒がしい人ですね。厨房出てくれません?」
「真顔に戻れってことなら無理な相談よ」
家で食べるだけならいいけど、今回は効率重視な社食メニュー。ぼーっとしていられる時間はなくて、今のうちに調理器具の片づけをしなけれならない。
「見たかったなぁ……膨らんでいく瞬間」
「見てくればいいじゃないですか。片づけは一人で足ります」
優しいような、ウザがられているような。しっしと手まで降らなくても。
「まったく、あんたも見なきゃ意味ないでしょ。二人でさっさと片付ければ、ギリギリ間に合うかしら」
「酔狂なことで」
「世界を滅ぼそうとした奴にだけは言われたくないわ」
というわけでさっさと擦って流して片付けて。分担作業でより早く。
急いでスチコンの前にいけば、ちょうど膨らみ始めたところだった。そうそうこれこれ、オーブンの前でじっと見るこの時間が、一番好き。
「あの大きいの見える? あれが、八割まで入れたやつね」
「……ふくらんでいる」
横を見ると子供のようなあどけない表情で、セシリオはカップケーキを眺めていた。
バターと小麦粉の匂いが鼻をくすぐる。ああ、最高だ。
「いい匂いがしてきたーーー!!」
「あら、ほんとうね。いい匂いだわ♡」
食堂の方にも匂いが流れていったようで、馬鹿と野太い声が聞こえる。
三十分程度で焼きあがる、お手軽おやつのカップケーキ。これ案外、うなぎ屋とか焼き鳥屋みたいに匂いで売れたりして……。
と、考えていたところで焼き上がりの音が。ちゃんとミトンを嵌めて、火傷に気を付けて取り出してもらう。労災はよくない。
「じゃ、こっそり味見しましょうか」
ふんわりでほわほわの、焼き立てカップケーキを。




