2. 巨大たまごで生存大作戦
「袖の下作戦をしようと思うの!」
「……戻ってきて一言目がそれなの?」
デュラハンにぶつかりそうになりながらも、廊下を駆け抜け、戻ってきたのは食堂。またもやドアを思い切り開けて叫ぶと、お皿を拭いていたジュリエットが怪訝な顔をする。ジョンは相変わらずカウンター席でダラダラとサボっていたらしいところを飛び起きた。
「袖の、下……二の腕!?」
「あんたにはついてないでしょ……ってそうじゃなくて。袖の下っていうのは、賄賂のことよ」
「ワイン? オイラ飲めないのに!?」
こてん、と首をかしげて、そのまま頭蓋骨が転がったジョン。こいつに難しい言葉使った私が馬鹿だった……。
「違う。つまり、裏でお金を渡して言うこと聞いてもらうことなんだけど……今回の場合はごはんで釣るのよ!」
「なーんだ、いつもやってることか〜」
「やってないわよ、失礼ね」
そんな人を悪人みたいに。確かに元悪役令嬢だけど。でも私、別に悪事は働いてはないし。コミュ障拗らせて破滅回避できなかっただけで。
「さて、何を作ろうかしら。全員が喜ぶものがいいわね、うーん」
ズカズカと厨房に入り、冷蔵庫を確認。あんまり使える食材がない。
「っチョット待ちなさいよ! 一体全体どうしたわけ?」
「あ、ジュリエット。それが……かくかくしかじかでね」
というわけで、財政難すぎて、魔王達が私をマフィアに売ろうとしていることを話した。それを避けたいから、またごはんの力に頼るのだと。
「エ、エリザベス様が臓物に!?!?」
「ハァ!? ありえないわよ!!」
う、うるさっ!
歯をカチカチして震えてるジョンに、本気で呆れているジュリエット。洗い物を片付けているマチルダさん達の耳も心無しか大きく見える。
「そもそも大陸ってどんなところなの?」
基本的に自国で全部完結してたから知らない。とりあえず輸入品から、なんか中華風というか、アジアンテイストなところってのは知ってる。香辛料とかいつも助かってるし。
「中央大陸はね、妖魔と人の交わる土地よ。貿易の中心地で、妖魔と人のハーフが皇帝の大帝国なの」
はえー……。なんか凄そう。よくわかんない。ジョンなんて妖魔がわからなすぎて、ヨーグルトだと思ってる。最初の一文字しか掠ってないわよ。
「あそこは規制が激しいし、おいそれといける場所じゃないわ。勘違いよ! 魔王様達がそんなことするとは思えない」
「私だってそう思ったけど….確かに聞いたんだって!」
そんな疑われても困る。マフィアやら臓器なんて、他にどんな時に使うのよ。バッチリ私の名前言ってたし。
ジョンはもう話についていけずに壁のシミを数えている。奥のマチルダさん達はヒソヒソと何か話してるし。
「……ま、いいわ。ほら、さっさと作って持っていって恥かいてきなさい」
ジュリエットは、やれやれって感じで肩を竦めて、フンと鼻息をつく。壁の時計を見ると、確かにもう休憩時間。午後は厨房が比較的空いてるとはいえ、作るなら今しかない。
「さっさとって言われてもまだ作るものも決まってないし……ああでも、おっきな卵があるわ」
「え、それオブジェか何かじゃなかったのね?」
ジョンの背丈くらいあるおっきいな巨大怪鳥の卵。白くて大きくて、まるで前世で読んだ絵本のよう。
霊氷庫に入れたら他の物が入らなくなるから、バジリスクを呼んで冷たい温度を保つ魔法をかけてもらったやつ。「特上級魔法を便利魔法みたいに……」とかぶつぶつ言ってたっけ。
「ドワーフのおじいさんが持ってきてくれたのよ」
この間崩れたラストダンジョンの巣の上にあったらしい。とりあえずドワーフのおじいさんが無事でよかった。
マチルダさんは、私に持ってきてくれたんだから好きにしな、と言っていたけれど。
「へーー、すっごぉい!!」
「あ、コラ! すぐ触ろうとしないの!」
「それにしても大きいわね、家にできそう♡」
ピクシーが横に並ぶと余計に大きく見えるわ、この卵。
卵……卵かぁ。みんなでシェアしやすくて、インパクトがあって、話を聞いてもらえそうなものがいい。やっぱり甘いものだろうか。砂糖なら、在庫に余裕があったはず。
焼き菓子にしてもいいけど、卵が大きい分小麦粉の消費量も凄いことになるだろうし……。となると生菓子か。あ、そういえば。
「よし! 巨大プリンアラモードを作るわよ!!」
「ぷりん……あら、モード?」
「変な区切り方しないで」
あの時バケツプリン作りたいって溢したら、魔王は食べてくれると言っていた。せっかくならパワーアップさせてしまおう。こんなに大きい卵ならアイスだって作れるし、たくさん乗っけられる。
うふふ、ふふふふふ……。
「あ、エリザベス様が気持ち悪い笑い方してる」
「この娘ったら……いつものことよ」




