1. 元生贄、まさかの
「ちょちょちょ、ちょっと待ったーーーー!
会議室のドアを破壊する勢いで開けた。実際ちょっと壊れたかもしれない。魔王城らしく重厚感のあるドアは金具が外れかけている。でもそれどころじゃない。
「食堂のこと話してるなら、この私、食堂係エリザベスも交ぜてくれなきゃ!」
魔王やオルトロス、バジリスクにギガンテス……魔王城の強者達から視線が集まる。正直蛇に睨まれた蛙の気分……実際バジリスクとかいう大蛇もいる。けど、負けるわけにはいかない。
だって、私が死ぬ気で守った居場所が、実質無くなるかもしれないんだから。
*
『私を食べるより、料理させた方が美味しいものを長く食べられるわよ!!』
日本の就職難民だった前世の私は、やっと決まった就職先の食堂が燃え、無職になったショックで車に轢かれて死んだ。
そして生まれ変わったのは、前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢だった。本来なら回避を目指すところなのに、コミュ障ゆえに何もできず。そのまま断罪され、魔王の生贄となった。けど食われたくなかったし、死にたくなかった。
『だったら、私がこの食堂を立て直してあげるわ』
幸いにも、コミュ障は魔族相手だと少し緩和され、魔王との取引と契約の末、私は社員食堂係として食堂の立て直しに奔走することになった。
もちろん最初からうまくいくことなんてなく、食堂係のボスに目をつけられたり、スケルトンのバカにカレーを台無しにされたり、四天王達……オルトロスを殴っちゃったり、バジリスクに頭を下げたり、ギガンテスにどんぶりを破壊されたり。裏切者のグリフォンに殺されかけたりもした。
それでも徐々にお客さんは増え、魔王が聖女を倒し、無事一件落着……になったはずだった。
────「食堂の予算が減らされそうだ」ということを聞くまでは。
*
今までの努力を無駄にされるもんか。なんなら今年の夏はバジリスクにクーラーを作ってもらうつもりだったのに!
昔と今の私は違う。ビビったりなんてしない。四天王とはいえど、もう私のお客さんなんだから。
キッと睨みつけ……つけ……。
「今大事な話をしているところだ」
「邪魔はよくねえぜェ!」
まずはオルトロスからのジャブ。
「聞こえなかったのかしらぁ?」
そこからバジリスクのフック。
「……すまなイ」
ギガンテスの申し訳なさそうながらも重いボディブロー。
「出直してくれ」
いつも優しいはずの魔王によるストレートでKO。一方的にボコされ、流れるように退場。
え、嘘。
せめてもの抵抗で、壁に耳を引っ付けてどうにか盗み聞きしようとする。分厚いドアのせいで途切れ途切れだけど、でも。
「大陸……人間……送る……」
「危険……」
「……マフィア……臓器……エリザベス……よぉ」
……聞かなきゃよかったかもしれない。
魔王城に人間は私しかいないし、バジリスクがエリザベスとはっきり言った。
マフィア+臓器(私)=売られる!?
「は?」
いやいやいやいや、何かの聞き間違いよ。あのなんだかんだ優しい魔族たちがそんな非魔道的なことするわけがない。
だって、オルトロスは生姜焼き定食が食べられなくなっちゃうし、バジリスクだってがっつけない。ギガンテスなんて月一ラーメンをめちゃくちゃ楽しみにしてるのに!?
「幹部……死ぬ……」
「外国……ダ」
oh……。
そもそも、予算が減る理由はなんとなく理解していた。聖女戦のダメージは凄まじく、魔王城は金欠だからだ。福利厚生部の食堂の予算を減らすのはわからなくもない。けど、嫌だった。だから乗り込んだ。
「予算減らすんじゃなくて、まさか私で金稼ぎ?」
食堂どころか私の危機だった。
私のモツなんて美味しくない。売ったって高値で売れないわよ。
でも、もう一回乗り込んで伝えたところで、さっきみたいに追い出されて終わるだろうし……。話に割り込んで、私を輸出しないようにさせるには、一体どうすれば……。
うん。私には、アレしかないわ。




