59. 四股男、まさかの……
「あらあらぁ、いいご身分ねぇ」
「そっちこそ、元カレに対して随分な挨拶じゃーん。三年ぶりくらい?」
ちゃんとしたベッドに防寒具、床にはカーペット付き。魔王城の地下牢は、普通に住めるレベル。そんな噂を聞いて、研かつ部に行くついでに通りかかったからこっそり見に来てみたら……。
修羅場に出くわしてしまった。
檻越しに笑顔で毒を吐きあっている、ウェーブの紫髪のセクシー系美人と薄緑髪のハーフアップの美形チャラ男。つまり、バジリスクと魔法使いのルイス。絵面はいいのに、雰囲気が恐ろしすぎる。思わず隠れたけど、これって一体……。
「彼氏だなんて思ったことないわぁ。思い上がるのも大概にしてちょうだい?」
「その割には俺に惚れてたじゃん」
「自惚れるのが好きねぇ」
さっきからの会話からして、もしやあの四股ルーカスは、このルイス……。
怖いもの知らずな魔族じゃなくて、浮気者の人間、その上攻略対象の一人だった。
「しっかし、魔族で四天王だとは思わなかったわ。あの変装技術なんなの? 人間だと思ってたんだけど」
「……下半身に脳みそがある人に教えても無駄よね」
oh……。すんごい怒ってる。今にも殺しそうな目してる。怖い。
それを無視して、耳とんがってなかったし、そんな明らかに人外な瞳孔もしてなかったーとか言ってるルイスやばい。
「貴方こそ、わざわざ国境の都にまで来て、髪色は違う上に魔力まで持ってたじゃない? 何が目的だったの?」
「えー女漁りかなー。王都だと刺されやすいからね。転移魔法を使うのにちょっと魔石の力を借りてたんだよ。魔力足りないから~」
へらへらと笑うルイスに、どんどん冷ややかな顔になるバジリスク。
刺されるくらい遊んでたってこと? 別世界の人間すぎる。
「普通の年上お姉さんだと思ってたのになー」
「私も、人に紛れている一般魔族だと思っていたわよ。それがまさか、こんな阿呆だったなんて」
どうにかしてこの場から離れたいような、でも聞いていたいような……。
「私、貴方の名前を一度も呼んだことなかったのね」
「お互い様じゃないの、レイラちゃん?」
「……フンッ」
「ほらぁ〜」
ん??
ちょ、ちょっと待てスケコマシ。あのフンッは、私は教えたけれど、のフンッでしょ。頬を膨らませて、プイッて横を向いて。
「せいぜい、命乞いでもすることね」
少しずつ状況がわかってきた。バジリスクはなんだかんだ言ってまだ好きで、心配で見に来たんだ。かわいいかよ。そしてろくな男と付き合えない理由がここに全て詰まってそう。よくわかんないけど。
「そんなことしないよ~。殿下さえ頷けば、俺は素直に国に帰るもん」
バジリスクが目を丸くする。密かに私もびっくり。説得に時間がかかってるって聞いてたけど、ルイスは了承してるの。
「国王に、侵攻を止めるよう伝えてくれるわけ?」
「それしかないっしょー。てかそれだけで逃がしてもらえるならそうするよ。殿下は頭が固いからちょっと難しいみたいだけど」
頭が固いというか、廃嫡になってもおかしくない失態だし、そう簡単には決断できないでしょ。私だって侯爵令嬢だったからわかる。
「俺たちはいい暮らししてる分、責任も重いからね」
それに、聖女様にいきなり役目を押し付けたのは事実だし。となんてことないように言うルイス。案外、こういう人ほど大人なのかもしれ……。
「別に俺は追い出されたところで自由が増えるだけだしー。レイラちゃんのとこにもまた遊びに来ちゃったり」
「っ来なくていいわよ!」
「またまたー」
前言撤回。スケコマシほど身軽な存在はない。自分を断罪したやつとはいえ、ちょっと殿下が可哀そう。
「無様な死体になったら笑ってあげるわ」
「はいはい。……ごめんね」
そう言うとバジリスクはヒールを鳴らして行ってしまった。つまり、死なないでってことよね。やっぱり優しいというかなんというか。
「まったく、レイラちゃんは可愛いなぁ」
足音が聞こえなくなってから、ルイスが漏らした言葉は聞かなかったことにした。後でバジリスクに何か美味しいものを食べさせてあげよう。
……同じく牢に入っているはずのグリフォン、いやセシリオはどうしているのかしら。というか、牢のごはんって何だろう? 食堂係、知らないんですけど。




