57. 炊き出しは食堂の主戦場
「豚汁はこっちでーす!!」
晴天の下で、大鍋をかき混ぜる。よそって、渡して、そのくり返し。やっぱり、おたまが手にあるって凄く落ち着く。この日常を守れて良かった。……けど、昨日は本当に大変だった。
*
外に出て様子を確認してみると、ダンジョンが崩壊していた。跡地から天に向かって光のビームが放たれ、それにより周辺の雲が消えていた。
『晴れ、た……?』
呆然としているうちに、地下から研究員がワッと出てきて、玉座からしか行けないのに走ってダンジョンまで向かおうとするもの、それを止めるもの、ペンを持ったまま膝をついて拝み始める者のカオス。
『非常事態に次ぐ非常事態だな。すまないが、一度牢に入れさせてもらう。悪く扱わないことを誓おう』
魔王は聖女のお供達を問答無用で牢へ送り、各方面へ連絡し始めた。聖女とお供は一緒にさせない方がいいとの判断らしい。言いくるめられそうだし、納得。
『……もいっこ食べる?』
その間、聖女に追加のおにぎりをあげつつ、話を聞いた。体から光とか飛び出てたのが心配だったのもある。
やっぱりグリフォンが関わっていたらしく、攻略法やら聖魔法を封じる魔道具の壊し方など色々教えられたんだとか。
色々連絡が終わって、魔王は会議へ行き、私は聖女のお目付け役となった。魔法の制限をすればただの人間と変わらないからという配慮もあるらしい。そう言われたら何も言えず、しょうがないからこそこそと寮に連れ帰って。
『わ、私は床で大丈夫だから。ほら、その、疲れただろうし……』
誰かと一緒の部屋で寝たのなんて前世の気まずかった思い出しかない修学旅行以来で、コミュ障を発動させた。最終的に向こうが気を遣ってベッドで寝てくれた。手元におにぎりのない私は無力。
……で、情けなさに打ちひしがれながらも床で考えた。今私ができることは何か。この非常時の今こそ、料理の力でしょう、と。
*
そうして今に至る。魔王城は半壊、魔王が勝ったことを喜びながらも、みな今後の仕事がわからずてんやわんや。とりあえず復旧作業をしている状態だ。肉体労働はお腹が空く。
そんなときには、ハイ出張社員食堂。中庭にて、おにぎりと汁物の炊き出しを行なっている。
「熱いので気をつけてくださいっ!」
私がお目付け役なせいで聖女……スピカも一緒だけども。
「……ど、どうも」
昨夜半壊させた張本人がニコニコと配っているものだから、普通にみんな怖がっている。マチルダさん達おばさまでさえ距離を計りかねているし、いつもはつまみ食いにくるジョンすら来ない。罪滅ぼしとか言って手伝わせてほしがってきたけど、罪増やしてない?
猫の手も借りたいくらいだから、別に邪魔なわけじゃないけど……。
「エリザベス! もうこっちが無さそうだから追加を頼むよ!」
「っはーい!」
まあいい仕事だ。スピカを連れて食堂の厨房に戻る。カウンターにいるように言うと素直に聞いて、こっちを凝視してくる。なんか緊張。透明なガラスの中で料理してる人ってこんな気分なのかも……。
「いや、切り替えよう」
まずはにんじん、ごぼう、大根を大量に切って、ごま油で炒める。豚肉が白っぽくなってきたら、お湯を入れる。この時、ごぼうのアク抜きを忘れずに。味噌を足してもう完成。地下村の人たちの力を借りて大量に作っておいてよかった。前世でもいつか作りたいと思ってたから作り方だけは知っていたのが功を奏したわね。
「あとは小ネギを大量に切って、渡す前に散らせばOK」
さすがに寸胴鍋を持っていくのはキツイと思っていたけれど、スピカが軽々と持って行ってくれた。私よりも身長低いはずなのに……怪力。おかげでその後も無事に配膳を終えられた。
「お疲れ様。いただこうかね」
「いただきます」
ひと段落して、私たちもいただく。
熱い豚汁が喉を通って胃に落ちて、ほぅっと息を吐く。寒暖差で鼻水が出た。
豚の旨みと味噌の味に安心するし、その汁が良く染みている大根がいい。にんじんとごぼうの歯ごたえも楽しい。
「美味しいです……!」
「それはよかった」
結局、ごはんが世界を救うのかもしれない。
スピカは国に戻らず、ジャックと一緒にしばらく逃避行することに決めたらしい。母国に戻ったらまた利用されてしまうかもしれないから……と。
殿下とルイスは説得に時間がかかるだろう。あの二人には立場があるから責任問題とか大変そう。
「それにしても、魔王ってば大丈夫かしら」
被害に加えて、四天王の一人が投獄中なわけだし。豚汁を運びに行っても執務室にいなかった。まったく人の心配はするくせに自分はどうなのよ……。無理してないといいけど。




