44. タダより怖いものはない
!?
「すすすすすまない!」
「……ご、ごめんなさいっ」
お互いバッと離れて謝り合う。魔王と生贄の悪役令嬢が土下座しあってる図。おかしいとはわかってる。でも、無理。顔を上げられないし上げてくださいとも言えない。
何? 今何が起こったの? 魔王と顔が近くて、それで……。ダメだもうよくわかんなくなってきた。
「本当にすまない」
「こちらこそごめんなさい!!」
先に顔を上げたのは魔王だった。いつものよくわからなかったり余裕そうだったり、やれやれって感じじゃなくて、真っ赤。初めて見たこんな顔。
「せ……責任は取る」
「責、任……?」
フィクションとかだと付き合ったりするやつ? コミュ障がそんなの不可能ですが?? そもそも友達すら……友……そうだわ。
「と、友達になってちょうだい!」
「わ、わかった! 友達だな!」
そうして変なテンションのまま目も合わせないで握手したところで、壁が少し変なことに気がついた。
「ねぇ、あれって……」
一見他のレンガと同じなのに、微妙に飛び出ている。まるで、抜けば何かがあるように。
「……下がっていろ」
何やら魔法陣で調べた後魔王がそれを引き抜く。すると壁が動き出して、隠し部屋が現れた。小さな滝。真ん中には水晶玉。そして一面に生える草花。ひとつ摘んでみる。間違いない、ハーブだ。それも貴重なやつ。
「礼を言う。手間が省けた」
「こちらこそ! 大量だわ!!」
水晶玉の前で何かをしている魔王を放っておいて、一心不乱にハーブを摘んだ。
すごい、素晴らしすぎる。これだけあれば一日限定スペシャルメニューとして出せるかもしれない。
「この魔法陣を応用すれば最下層まで飛べるな……。エリザベス、行くぞ」
「ちょっと待ってちょうだい。まだ収穫したくて」
これじゃまだ三十人前くらいにしかならない。もしマッチョ集団も食べたいと言ったら最悪十人前に……。
「そろそろいいか?」
「もうちょっと!」
「……」
エプロンを風呂敷代わりに詰め込むこと数十分。魔王はその間ずっと待ってくれていた。
「もう行かないと日を跨ぐことになるぞ」
「……けど」
「また連れてきてやるから、な?」
しびれを切らした魔王にそう言われ、しぶしぶ離れることに。水晶に触ると魔法陣が現れ、いつものように暗転すると、そこはクリスタルでできた洞窟だった。
「凄い……」
美しさに惚けていると足音が近づいてきた。
「お客さんとは珍しい。どなたかの……って何だ小僧か」
「小僧って言うな」
凄く小さいハゲのおじいちゃんだった。つなぎに眼鏡型拡大鏡、手にはハンマー。THE・職人。
それにしても、魔王が小僧って、どれだけ長生きなんだろう。魔王っていくつ?
「それに、今日用があるのはこっちだ」
「んじゃデートかの?」
「そうじゃない」
からかわれている。とってもからかわれている。魔王城の魔族たちが見たらどんな反応するんだろう。
珍しい魔王をもう少し見ておきたいけど、今日来た目的を果たすべく声をかける。
「あの、巨人や小人用のテーブル席を作ってもらいたくてきたの」
「んぅ? よく見たら、お嬢ちゃん人間かい?」
「ええ……」
おちゃらけた雰囲気だったのに、少しピリつく。また人間だからと断られたりしないかと少し身構えた……ものの。ドワーフは私ではなく、魔王とアイコンタクトをしていた。
「よく霧のダンジョンで生きてられたのぉ。偉い! ご褒美に初回無料サービスしちゃう」
そしておちゃらけた雰囲気に戻った。さっきの間は何だったのだろう。
「守ったのは俺だ」
「んじゃ可愛いからサービスしちゃう」
「ドワーフ!」
「ほぉっほぉっほぉっ」
とりあえずタダで、しかも輸送までしてくれることになった。タダより怖いものはないけど、でもなるべく予算は使いたくない。代わりに届けてくれた日は食堂でさっき採ってきた山盛りのハーブを使った香草焼きをご馳走することにした。
私の頭はすっかりハーブ、テーブル席によって埋め尽くされていて、魔王との事故を思い出したのは自室のベッドに入ってからだった。




