43. ふぁ?
「ッチ! 燃えろ!」
魔王が飛ばしてくれた黒い炎で胞子が焼け落ちる。なんかサーカスみたいで大迫力。
「おお~」
「おお~じゃない! いつもは割と大人しくしていたことがよくわかった……」
不気味だったはずのダンジョンは、パラダイスだった。
入った時こそ謎のギミックや飛んでくる弓に怯えてたけど、よく見れば謎の植物や魔物がたくさん。すごい甘い匂いのする花やら豚と牛のミックスみたいな獣……美味しそうとしか言いようがない。しかも隣にいるのがゲーム内最強の魔王ときた。転生した時から恐怖で消えていた、ゲームの中だというワクワク感が蘇る。
「頼むから落ち着いてくれ。ここの危険度は……」
「わっ、何あの浮いてるカップケーキ!」
「あれは擬態してる魔物で……食べようとするんじゃない!」
魔王が先に取って燃やしてしまった。ドロップ品として結晶が手に入る。……カップケーキから落ちたんだから砂糖菓子とかだったりしないかしら。
「食べるなよ?」
「た、食べないわよ……多分」
じっとりとした視線が向けられる。さすがに自分でもテンションが高い自覚はある、けども。もしかしたら何か美味しいものが作れるかもしれないと思うと……。
いや、でもここからだと入手と輸送が難しいか。
「っちゃんと前を見ろ!」
「え?」
足元から、カチッと何か音がした。
マズイ。
突然床が開いて、浮遊感の後。
「エリザベスっ!」
魔王が手を伸ばして、それで。
「いた……くない」
上を見るとさっきいた層のであろう天井が微かに見えた。確かに、というか随分落下したはず。キョロキョロと周りを確認する。薄暗い部屋。なんか不安定で微妙にやわらかい床。ん? 布?
「ゲッ!」
床だと思っていたの、魔王だった。
私が痛くなかったのは魔王が下敷きになってくれていたかららしい。とりあえず頬をぺちぺち。まさか死んでないわよね。魔王の死因が落とし穴に落ちた悪役令嬢をかばったため、なんてどう説明すればいいのかわからない。
「ん……ったく」
魔王は煩わしそうに目を開けた。眉を寄せて、何度か瞬きして。今更気づいたけれど、呼吸してるから胸が上下してる。
「よかった、生きてた」
「勝手に殺す癖をやめろ。……怪我してないか」
「してないわ。……ごめんなさい」
さすがに肝が冷えた。反省しなければならない。
魔王が起き上がろうとしてピタッと止まった。そういえば上に乗ってたんだった。
「あっ重いわよね。今降りるから……」
「いや、軽すぎる」
「ん?」
ガシッとウエストを掴まれる。え、何どういうこと。
「ちゃんと食べてるのか?」
魔王に食生活を心配される社食係とは一体……。
まあ、そもそも少食な方だし、お腹が空く時間はちょうど労働中だし、魔界に来てから抜きがちではあったけど、でもそんな心配されるほどでは。
「食べてないんだな」
ずいと顔を近づけてそう言う魔王。圧が凄い。
「魔族を健康的にすると言っておきながら、自分が不健康になるなんて本末転倒だ。お前も俺の部下なんだぞ」
「心配、してるの?」
「ずっとしているが?」
思えば、ずっとそうだったかもしれない。
生贄だからっていうのも勿論あるだろうけど。今ではマチルダさんたちも、ジョンも、みんな心配してくれている。わかっているようで、わかってなかった。
「そっか……」
そろそろ、魔王が敵じゃないって認めなきゃ。確かに私を殺すかもしれないけど、でも、敵じゃない。
「んんっ。で、軽すぎるがいつまで馬乗りになっているつもりだ?」
「えっ」
馬、乗り? 確かに、傍から見れば悪役令嬢が魔王を押し倒してるとかいうカオスな状況では??
慌ててどこうとするも、人の上に乗った経験なんてないからうまくいかない。体勢が崩れ……。
ふにっ。
────超至近距離に赤い瞳があった。




