41. 魔族と共にあるということ
「……なぜダ」
「食べづらいし、これを魔族が求めてるとは思えないから」
なんで忘れてたんだろう。とっても大事なことを。
*
前世の、それもまだ子供の頃、お気に入りの絵本があった。
大きな食材に、大きな調理用具、そして寄ってくる森の仲間たち。主人公たちは大きな料理を森の仲間たちと一緒に美味しそうに食べる。
その絵本を読み聞かせてもらった後、私はいつも
『ねえ、ママ! これ作って!』
とねだった。お母さんは『また今度ね』といつものらりくらりとかわしていた。けれどある日、おねだり光線に根負けして
『もうしょうがないなぁ。じゃあ次のお休みの日にね。スキレット買ってこなくっちゃ』
と言った。作ったらお庭に持って行って、森の仲間たちを待つんだと、子供らしく考えていた。嬉しくて、楽しみだった。
……けれど、それは作られることはなかった。次のお休みの前に、お母さんは事故で死んでしまった。そうして大きな料理のことを忘れてしまうほど、生活は一変してしまった。
『今日は──ちゃんちであそぼう』
少し落ち着いてきた頃、仲の良かった友達にそう言われた。けど、帰っても誰もいない家に、人を呼べるはずもなかった。今まで場所を提供していた分申し訳ないと思いつつも断り続けていたら、いつの間にかその子は遊んでくれなくなっていた。すると、一人、また一人と遊んでくれる子がいなくなる。子供の中の暗黙のルールは、中心人物には逆らわない。私は友達がいなくなっていた。
『……これ、絵本のやつだ』
遊ぶ相手もいなくて、宿題も終わっちゃって、家にひとりぼっち。そんな時に見つけたスキレットやレシピのコピーはキラキラ光って見えた。
お小遣いは全部材料費に消えた。作って、失敗して、何日かかけて頑張って消費して、また作って。やっとおいしく作れるようになったけど、その頃には森の仲間たちがいないことも、こんな私じゃ振舞う相手を作れないことも、全部わかっていた。
────『うまかった』
私はただこの一言が欲しかった。
*
前世の知識に引っ張られすぎて、肝心の目的を忘れていた気がする。
私は自分の料理をおいしく食べてくれる人が欲しい。そのためにした魔王との取引が食堂を立て直すこと。だから、私は魔族に寄り添って、魔族が食べたいものを作らなきゃ。
ラーメンの分の赤字は痛いけど、でも勉強代として考えるしかない。
「そうカ。でも、オレはコレ好きだ。うまい」
「ありがとう。どこがおいしいと思ったの?」
「上手く言えない。ただ、うまいと思ウ」
うまい……多分旨味成分のこと?
それとも油分か炭水化物か。そういえばマッチョ集団は筋肉に反応してたし……。
「食えなくなるのは、嫌ダ」
うっ。
ギガンテスの悲しそうな声に後ろ髪を引かれる。そう言われると、食べさせたくなってしまう。ラーメンのことはすっぱり諦めようと思ってたのに。
いやいやいや、エリザベス、さっき反省したばっかりでしょう。不評具合を思い出しなさい。
「ま、まずは大型や小型の魔物も来れるように頑張るわ」
「アリガトウ。ずっと、オレも来たかっタ」
それで自分たちが使うテーブルを触ったら木っ端みじんと……。凄いわね怪力。なんでこっちが魔王じゃないんだ。
「テーブルはオレが直そウ」
前髪で見えなくても目がキラキラしているのがわかる。ありがたいけど、遠慮したい。その、あれだと使われているうちにまた壊れそう。
どう角が立たないように断ろうかと迷っていると、今まで黙っていた魔王が口を挟んだ。
「いや、ドワーフに依頼した方が良さそうだな」
「ドワーフ?」
ファンタジー作品ではあるあるの種族だ。でもゲームで見たことはなかったし、この世界にいるだなんて思わなかった。
「ああ、霧のダンジョンの最下層に住む凄腕職人だ」
え? ダン、ジョン……? それって……。




