38. どんぶりぃーーー!!
「……もう営業時間外なのだけど」
ギガンテスは地ならしを起こしながら食堂に入ってきた。椅子から立っていつでも逃げられるよう身構える。
何もかもわからない。あの謁見室の時もいなかったし、今まで一度も関わりはなかったはずだ。食堂を利用しているのを見たこともない。
「何か用? 明日にしてちょうだい?」
ギガンテスは何も言わない。
ラーメンどんぶりを持ち上げ……粉砕した。そしてそのどんぶりの破片を拾い見せつけてくる。
……お前もこうしてやるってこと?
「何が目的なの? 私を殺したところで、魔王はそれを望んでないわよ」
ギガンテスは何も言わない。破片を持ったまま黙っている。
恐怖と重い空気に押しつぶされそうだ。
「っなんとか言ったらどうなの?」
気圧されてると悟られないように、必死に声を出す。ギガンテスは無視して食堂の奥へ向かった。
だだっ広い食堂の中の謎のスペース。小さすぎたり大きすぎるテーブル席や、もはやなんなのかわからないものが置かれた場所だ。誰も手が届かなくて、掃除すらできていない。
「どこに行くのよ。そっちには何も……」
追いかけたところで吹っ飛ばされた。ギガンテスが大きすぎるテーブルに手を置いた瞬間、衝撃波が起きたのだ。ほこりと木くずが舞う。粉砕されたテーブルがバラバラと落ちる。
「けほっ。いたた……」
……これは、脅してるの? 言うことを聞かないと食堂を破壊するって。
もう少し近かったら、柱にぶつかってまずかったかもしれない。
ギガンテスは私が吹っ飛ばされたことに気づくと近づいてきた。少し痛い体をどうにか起こして急いで立ち上がる。
「っこないで!」
とどめを刺そうとしてるのか、それとも別の目的があるのか。何も言わないから、何もわからない。
「……あなたは知らないでしょうけど、オルトロスもバジリスクも、私の味方よ。四天王二人はさすがに分が悪いんじゃない?」
睨みつけてそう言い放つ。脅しには脅しを。
何かあったら呼んでくれって言ってたし、バジリスクには貸しがある。嘘、ではない。今ここで叫んだところで届かないだろうけど。
「私だって、ここを戦場になんてしてほしくない。最初に言ったように、日を改めてちょうだい」
虚勢とはいえ、効果はあったらしい。ギガンテスは唇を噛んで、私から遠ざかった。そして、破壊したどんぶりを持って去っていった。
食堂のドアが閉まり、廊下から足音が聞こえなくなる。
「行った……わよね」
ひとまず生きていることに安堵して床にへたり込んだ。多分腰が抜けてる。肘の擦り傷が痛い。三角巾が緩んで床に落ちる。
食堂を見回せばひどい有様だった。衝撃波によってテーブルの上にあった紙は散乱し、奥の方は大破している。ある程度片付ければ明日の営業には響かないだろうけれど、それにしてもひどい。
「……守ってくれるんじゃなかったの」
ふと思い出して、胸元からネックレスを取り出してそうつぶやいた。魔王のお母さんの指輪は何も変わらず、傷だらけの黄金は明かりに照らされて輝いていた。
あの後動けるようになってから掃除をして部屋に帰った。ギガンテスの目的はわからないし、みんなにどう説明すればいいかわからないまま、朝は来て。いつも通り起きて、準備した。どこか他人事で、でももやもやとしたまま、出勤する。
──配膳カウンターには、不格好に直されたどんぶりが置いてあった。
「は?」




