37. そういえば”四”天王
……憂鬱な私とは反対に、今日も食堂は盛況だ。
「こんちはっす!」
「ちゃっす!」
マッチョ集団が続々とやってきて、食券機のカレーのボタンを押していく。
つまり、ラーメンがうまくいっていない。
「味噌ラーメンは今日限定なんだけど、どう?」
「いや、自分はやっぱカレー大盛っすね! 筋肉つけたいんで!」
ダメ元で勧めてみるも、断られてしまう。一番最初は食べてもらえたけど、今や全くもう全然チャレンジしてもらえない。
味とか麺とか考えてる場合じゃなかった。そもそもラーメン文化がないことに気づけてなかった。ラーメンとは何かを教えてもわからなかったり、啜るのに抵抗があったり。頼んでもらえないし、頼んでもらえても次に繋がらない。
「チキンうまっ!」
「オルトロス総監に絞られたからよりうまく感じるぜ」
食堂の方からそんな声が聞こえてくる。食べ応えがないのも原因だった。
ならばと試作してもジョンは箸を持てないから感想をもらえないし、ピクシー達には大きさ的に無理。ジュリエットになんて「アナタ間違ってるわよ。んもう若いっていいわね♡」とからかわれる始末。
「はぁぁ……」
それに私自身、作りすぎてラーメンに飽きてきた。でもここでやめたら、今までかけた資金がもったいない。とはいえ作り続けてもせっかくコストカットして資金に余裕ができたのに、このままじゃラーメンのせいでなくなっちゃう。
なにもかも、八方塞がりすぎる。
「どうすればいいんだろう……」
これまでがうまくいきすぎてた感もあるけど、まさかここまで悩むことになるなんて。出すことには賛成とか言ってた魔王を恨みそう。
大事なことって何なの。今のところ後悔しかないわよ。
「こら! エリザベス! ぼーっとしてないで手を動かしな!」
「っはい! すみません!」
マチルダさんの怒声が飛ぶ。いつのまにか手が止まっていたらしい。
揚げ終わったコロッケがバッドの中で渋滞している。ピクシー達のつぶらな瞳の圧が凄い。
「とっても邪魔なの。早く持ってってください」
「ごめん、今持ってくから」
ピクシー達による人力ベルトコンベアーは早くて量産できるけどその代わり誰かが止まると流れが滞ってしまう。やばいやばい。
「クロエさん、コロッケの追加置いておきます」
「はいよ」
どうにかお昼営業を終えて、午後の業務をして。今日も残業。ラーメン問題だけじゃなくて、部屋に戻りたくないのもある。
「嫌だなぁ……」
というのも、最近視線を感じる。ストーカーとかじゃなくて、こう何か強者にどこか遠くから見られているような、そういう視線。それはお昼営業の終わり際だったり、仕事帰りだったりとにかく人の少ない時。
強者で知り合い、だと思いつくのは魔王かオルトロスくらいだけど雰囲気が違う。何か大きくて威圧感のある別の人。
『ねぇ、誰?』
と思い切って一度聞いてみたけれど、誰もいないし何も返ってこなかった。
食堂のみんなに相談しようにも見られている証拠がないし、どう説明すればいいのかわからない。そのせいで微妙にもやもやしている。今日はなんだか特に。
……今すぐドアが開いて、魔王がこないかなぁ。そうすれば、大事なことって何か聞いて、視線の話も相談できるのに。
ああもうほんと、魔王って神出鬼没でよくわかんない。味方なのか敵なのか。助けてくれるのか助けてくれないのか。
「今度会ったら問い詰めてやろうかしら……」
没になったラーメンの改善案の紙をぐしゃぐしゃに丸める。そうやってブツクサ呟いていた時、食堂のドアが開く音がした。
まさかタイミングが良すぎないだろうか。
「ねぇ、魔……」
そこにいたのは魔王ではなかった。
三メートル近い背に、大きな角。目元は青い髪で隠れ、とにかく無表情。
オルトロス、バジリスク、グリフォン……でも、そういえば”四”天王だった。
最後の四天王、ギガンテス。ほとんどのプレイヤーが苦戦した四天王の中で断トツで強いキャラ。
本能的に、危機を感じた。




