36. ラーメンつけ麺…
「うぐぐぐぐ……」
終業時間後の食堂でガリガリとペンを走らせる。
新メニューやお客が増え、バジリスクによって快適な食堂係生活を送っているはずの私は頭を抱えていた。
「どうしてもうまくいかない……」
現在社食の看板メニューは、私の怪鳥カレーになっている。私の失言……
『鶏肉にはタンパク質が多く含まれていて……ああ、タンパク質っていうのは筋肉の素なんだけど』
なーんて、オルトロス率いるマッチョ集団に話してしまったことによって。しかもごはん大盛りにできるようになった結果、爆発的に人気が出てしまった。生姜焼き定食とかお弁当とかもそこそこ人気だけれど、カレーの壁を超えられない。
「ほんと、このままじゃカレー屋になっちゃう……」
私は考えた。このカレーの魔力に勝てるものはないのかって。
ラーメンだ。ラーメンしかない。というか、私がラーメンを食べたい。
きっとうまく行くと思ってすぐに取り掛かった。
中華麺のレシピは知っていた。バジリスクに頼み込んで製麺機を作ってもらった。
スープだって色々試しに作ってみた。
……でも試行錯誤すればするほど、理想というのは遠のいていった。
「はぁぁぁ……」
麺はスープによって変わる。オーソドックスな醤油でさえあっさりからコッテリまで、鳥や海鮮ダシなどなど。もう日本人が美食家すぎる。
というかスープを凝っていくと時間も資金も全く足りない。
「もう何が正解なの……」
こんなことなら前世でラーメンにハマっておけばよかった!
ガンッと机に突っ伏したところで食堂のドアが開く音がする。
「……いらっしゃい」
突っ伏したまま顔も見ずに手を振る。どうせ魔王だ。もう気まずいとかどうでもいい。魔王の手でも借りたい。
「お前、部屋があるよな?」
ほらやっぱり。
確かに終業後の食堂の方が家に近い。晩御飯は大抵試作した新メニューだったり食べないこともあるから、寝るためだけに部屋に帰ってる状況だ。
「……新メニューを考えていたのか」
「そう、ラーメンよ」
「らーめん?」
もう説明するのもめんどくさくてそこに座ってるように言って試作したラーメンを茹でて持ってくる。あっさりさっぱりシンプルイズベストな中華そば。ネギわかめもやしチャーシューを載せて。
「はい、試食して」
箸も一緒に渡す。魔王は困惑した表情を浮かべた。
食堂で見てる限り基本的に人型の魔族は箸が使えたはずだけど。
「……なぜ箸なんだ? スープパスタのようなものだろう?」
そう言われてハッとする。そっか、ゲーム内でもあったけど、確かに東の国からの輸入品でレア回復アイテムだった。
「これは別物で、箸で啜って食べるの。こんな感じで」
落語の蕎麦を食べているシーンのようなジェスチャーをする。
「なるほどな」
グッと眉根を寄せた後、ズルズルズルッと啜る魔王。相変わらず見た目に反して豪快。そして幸せそう。
……とはいえ、髪が邪魔そうね。
「ねえ、髪切ったら?」
もごもご……ごくん。
「切らない」
「邪魔なのに?」
「そうだ」
有無を言わせない何かがあったので黙っておく。なんだろう、長髪が好きなのかしら。
……まあいいわ。今はラーメンよ。
「どう?」
「うまい」
これが美味しく感じるってことは魔王は庶民的なラーメンが好みなのか。どこかのフードコートや学食にあるような、なんの捻りもないどこか懐かしさを感じる系。私も好きなのよね。
「よかった。原価はこのくらいで、値段はこれくらいになるんだけど……」
「だが、食堂的にうまくいくかどうかは、俺にはわからない」
え?
思いもしなかった言葉に戸惑う。
美味しい、のに?
「ただ、ラーメンを出すのには賛成だ。お前が大事なことにたどり着くような気がする」
優しいような冷たいような、よくわからない顔でお冷を飲む魔王。意味がわからない。
「大事なことって?」
「さあな」
……教えてくれたっていいじゃない。ケチ。何か含みを持たせた顔しやがって。
暑いのか分厚いコートを脱いで、中のシャツを腕まくりしている魔王に
「まだ晩夏で蒸してるのにそんな格好してるからよ」
と毒付いてさっさと食器を下げた。
結局方向性は決まらず試しに一日限定で出してみて様子を見ることにした。魔王が教えてくれないなら、わからないなりにやるしかない。
「見てなさいよ……」
──そんな決意とは裏腹に、意外な方向からわかることとなった。




