35. 聖女様は頑張りたい《間話》
──トレントの森に大きなくしゃみが響き渡りました。
「おいおい大丈夫かぁ」
「っはい! いざとなったら聖なる力でなんとかします!」
そう言えば先輩は揶揄うように笑いました。でも本当に、風邪くらいへっちゃらです。
私は聖女なのですから。
*
はじまりの草原の中で目が覚めたら、悲鳴が聞こえてきて。声のする方に向かえば女の子が魔物に襲われていました。
『危ないっ!』
これが、すべての始まりでした。
腰につけていた剣でなんとか倒したものの、私はまた気を失ってしまい。次に目が覚めると立派なお城にいて、女の子はなんと王女様でした。
『お名前はなんというのでしょうか?』
『な、名前……は』
私は記憶を失っていました。
王女様のお兄さんである王太子殿下が記憶を取り戻せるかもしてないと神殿に連れて行ってくれ、そして判定の儀を受けると……
【聖女 スピカ・ブライト】
水晶から光が溢れ、聖女であることが告げられました。
この世界は、いずれ魔界に飲み込まれてしまうのだと言います。
助けていただいたご恩を返すため、聖女の役目を引き受けることにしました。
そして色々なことがありながらも魔法学校で剣と魔法について学び、ついに聖騎士である殿下や魔法使いのカイン先輩と魔王を倒す旅に出ることに……。
*
「聖なる光!」
「ッナイスフォロー!」
先輩の後ろで襲おうとしていた魔物たちが光で浄化されていきます。間一髪で間に合いました。殿下がドロップ品を拾ってくれます。
「……これで全部だな」
「じゃあ、村へ戻りましょうか!」
四天王オルトロス、バジリスクを倒して、途中の村で受けた討伐依頼は終了です。
「これでひとまず安心だ。ありがとう聖女様」
村長さんから報酬をいただいて、防具を新調するために鍛冶屋に行こうとしたのですが……
「ドロボー!!」
という叫び声が大通りから聞こえてきました。急いで向かうと、女の人が地面にへたり込んでいます。
「大丈夫ですか!?」
「あ、明日のパンが!」
女の人に泥棒の特徴を聞きましたが、とにかく動きが早くて誰かわからないと言います。けど近くに他の村はなく、犯人は絶対に村の中にいるのは確かです。私たちは犯人探しの依頼を受けることになりました。
「何か手掛かりは見つかったか?」
「それが全然……」
「僕も聞き込みをしてきたが何もなかった」
殿下と話をしていた時、森の方にチラリと小さな人影が見えました。
「っおい、どこへいく」
急いで追いかけて森の中に入っても、もう姿は見えなくて。でも、村の中にあのくらいの身長の子供はいません。
私の見間違いでなければ……。
「あの、パンのお代は私が払います」
依頼人の女性……アナベルさんにそう言って理由を聞かれてもはぐらかしていると、いつのまにか私が怪しまれていました。
「っご、ごめんなさい!」
バッと頭を下げます。私がやったということになっても、どうしても犯人探しはやめて欲しくて。
怒られるかもしれないと身構えた時。
「聖女がそれは、無理あるだろ。俺だよ、盗んだのは」
現れたのはパンを持った少年でした。ガリガリに痩せていて……。
「あんたがっ!」
「どうか、許してあげてください! 私が、代わりに怒られます。パンのお代も払いますから!」
必死にお願いすると、アナベルさんは大きなため息をついて、盗みは良くない、とだけ言ってお代を受け取ってくれました。
「……おまえ、変な奴だな」
「だって」
「泥棒庇って何になるんだよ」
口を尖らせてそう言う男の子の頭を撫でます。
「確かに盗みはよくありませんけど、もし持っていたら、そもそも盗みは起こらないじゃないですか。ないから、盗むんです」
私たちは村に滞在している間一緒に過ごすことになりました。
少しずつ仲良くなって、少年……ジャックも村での扱いが良くなってきて。別れが名残惜しくなってきた夕暮れ時。
「……あのさ、盗賊とか、パーティーに欲しくない?」
「え?」
ジャックが突然、真剣な顔でそう言いました。
「俺、元は盗賊にいたんだ」
盗……賊……?
話を聞くと、生まれ育った盗賊団が壊滅し、唯一逃がされたジャックは行く当てがないのだとか。
「俺すばしっこいし、ナイフも上手いんだ。前衛にピッタリだぜ。だから、俺を雇ってくれよ!」
こうして仲間が一人増えました。
村を発って、次のボスのいる天空の頂エリアへ行く日。村のおばあさんに声をかけられました。
「聖女様。お願いだよ、どうか平和な世界を作っておくれ」
「安心してください! 私が必ず、魔王を倒しますから!」
まずは残る二人の四天王、グリフォンやギガンテスを倒さなくちゃ。
新たな仲間と共に、平和に向かって頑張ります!
「次は魔法を使う敵じゃないといいですね。カイン先輩、とっても戦いづらそうでしたし」
バジリスク戦での先輩は、フードをふかーく被って殿下の後ろに立ってたり、とにかく苦戦していた様子でした。
「いやーあれは……。なんていうか知らなかったっていうか。気まずかったんだよな。アハハ」
気まずい……? 先輩はなぜ目を逸らしているのでしょうか?