33. バジえもーん!
「バジリスク〜!」
「どうしたのよ小娘」
「食券機作って」
「……この流れもう何回目かしらぁ?」
ラボに呆れたような声が響いた。忙しそうにしながらも、一部の研究員が反応して身を捩らせる。
卵焼きと味噌汁によって、某青だぬきのように便利な存在ができた。巨大炊飯器に電子レンジも増えてとっても快適な社食作り生活。
「あのねぇ、この間は魔粒子の、その前は熱魔法の研究と並行できたからいいけれど、今度はちゃんと研究費をもらうわよ」
「貸し一つって言ってたじゃない」
「もう二つも三つも返してると思うのだけど?」
渋るバジリスク。ここまでは想定内。
「まあ聞いてちょうだいよ。食券機っていうのは名前の通りで、値段のお金を入れるとそれに対応するボタンが押せるようになって、代わりに食券が出てくるの。ちなみに設定された値段より多く入れた場合はお釣りも返ってくる」
説明するとバジリスクは考え始める。よし、食いついた。
「……つまりその魔道具の中には貨幣を識別する魔法や計算機、食券の紙と印字機が入ってるってこと?」
用途じゃなくてどんなものかを伝える。すると、負けず嫌いで難問を探す天才は思考を始める。
「貨幣を識別する魔法は商業の発展として研究費から……」
そして無理やり他の研究と繋げてまで作ろうとする。一度頭に浮かんだものは作りたくなってしまうらしい。
「どう? 作れそう?」
「ッグ! ……三日待ちなさい」
計画通り。
悔しそうながらもう作りたくて仕方なさそうなバジリスクに、ニチャアと笑いたくなるのを我慢して爽やかな笑顔で資料を置いてラボを出た。
「さて、これで混雑はどうにかできるかしら」
ふぅっと息をついて、今度は中庭へ向かう。魔王城は広いからさっさと行かなくちゃ日が暮れる。
今日も仕事、だけど調理と配膳はしない。腹を括って相談したら設けてくれた、食堂外での仕事をする日だ。
ガゼポの柱の丸いところを叩くと魔法陣が現れる。用があるのはB1。
「あれ、エリザベス様何やってるんですかぁ! ってなんだこれぇ!」
浮かび上がってきた文字を押そうとしたところで、めんどくさいやつがやってきた。駆け寄ってきて勝手に魔法陣の上に乗る。
「っちょっとジョン、狭いんだから押さな……あ」
「え?」
尻もちをついた拍子に押してしまって眩しい光に包まれる。
……まあいい。会話が続かなくなったらこいつにどうにかしてもらおう。
「すっげぇぇ!! 何ここ!」
「畑エリアよ」
B5……稲作エリアとは打って変わって、B1は農村のような場所だ。疑似的とはいえ青空が広がっていて、小屋があって、水車が回っていて、畑がたくさんある。
「おーエリザベスちゃん」
そして実際に、人間が襲ってきそうな地域に住んでいる高齢の魔族が避難もかねて勤務している。マンドレイクのおばあさんが作業する手を止めてやってきてくれた。
「な、何かご不便などございませんか?」
「快適だよぉ。人間は襲ってこねぇし静かだし」
相変わらず知らない人と話すのは怖い、けどおばあさんな分マシ。
「その、本日伺いましたのは、レタスの量をこの程度増やしていただきたくてですね」
「あいあい」
資料を見せつつ説明をする。ガチガチに緊張している私に対して、穏やかで田舎な感じのおばあさん。
お客さんが増えるということは、メニューの配分が変わる。つまり使う野菜の量も変わる。今までは業者に数字を変えて出せばいいだけだったけど、自社生産だと自分でやりとりしなきゃいけない。
そこへ旦那さんらしき人がクワを担いだままやってきた。
「あれじいさま」
「……儂は、こんなところを畑とは認めとらんからな」
ギロリと睨まれる。
ひぇっ。無理無理無理無理、頑固そうなお爺さんに突っ込まれてもパッと返せるほどコミュニケーションレベル上がってない。
「え、なんでぇ?」
内心冷や汗だらだらだというのに、空気を読まないジョンが聞いてしまった。
こ、このお馬鹿ぁ!!!




