30. 夜に口笛を吹くと
「……まだ帰ってこない」
バジリスクが四天王戦に赴いてしまって、一時間は経っただろうか。いや二時間くらい経ってるかもしれない。
その一、二時間ずっと、こんな大規模な農園を作ってくれたことに敬意を表し、言いつけ通り待っていた私。
稲用のエリアだからか、実際の日光のように徐々に光は弱まり、部屋は暗くなってきていた。さすがに真っ暗な巨大地下空間で一人は怖い。
「……帰ろ」
とりあえず魔法陣に手を当ててみる。光って文字が現れた。何々……B4、B3、B2、B1、G、1。このGってのはグラウンドで、海外での一階のことだって聞いたことがある。押してみると、行きと同じように光に包まれて、目を開ければ魔王城一階の中庭のガゼボにいた。
「はぇーー」
本当にエレベーターだった。バジリスク凄い。女王様なだけある。
なんて感心しつつも食堂に戻れば、マチルダさん達が残りの仕事は片付けてくれていた。ありがたい。
「で、バジリスク様が行方不明なんだってよぉ!」
翌日のお昼、ゴシップ大好きなジョンが配膳待ちしながらそう言った。ごはんと悪魔オニオンスープをトレーの上に載せてやる。結局、あの後もバジリスクは帰ってこなかったらしい。というか子供みたいにフォーク振り回して……。
「ちょっと、危な……」
「あっ!」
言った側からフォークは手からすっぽ抜け、そのままオルトロス……ジョージの頭に刺さる。あーあ。
「ごごごご、ごめんなさっ」
慌てたことでもう片方の手にあったナイフも空中へ。そしてチャーリーの方にブスッと。厨房のピクシーたちの笑い声が響く。
「貴様っ!」
「ああ? なんかチョット痛かったぞォ?」
怒るジョージ、気づいてないチャーリー。そしてお約束のように粉砕されたジョン。うん、相変わらずの自業自得具合。でも、怪鳥のスパイシー焼きが冷める前にさっさと戻ってほしい。後ろが詰まるし。
呆れながらも配膳を再開して、やっとお客さんの波が引いたところでオルトロスのところへ行ってバジリスクについて聞いてみる。
「さっきは災難だったわね。バジリスクのこと知らない?」
「……それが、ボクもわからないんだ」
「姉御、どうしちまったんだァ」
収穫なし。お礼がしたいのと、何より詳しい運用方法について聞きたかったのに。
「うーん……戦いが長引いてるのかしら」
「いや、それはない。さすがに終わっているはずだ」
「姉御は毒使いだからな!」
そういえばデバフと魔法キャラだった覚えがある。つまり毒と魔力がなくなれば終わりってことか。
「何か情報が入ったら教えてくれる?」
「ああ」
「おうよ」
ハナさんからもらった絆創膏もついでに渡しておいた。一応飼い主として責任がある。当の本人はルンルンと水のお代わりしに行ってるけども。
気にしつつもいつも通り昼営業を終え、他の業務も片付ける。久しぶりにあまり長く残業せずに帰ることにした。週末で疲れてるし、うん。
それにしても、バジリスクったら満身創痍だろうにどこに隠れているのやら。
「……夜に口笛を吹くと、蛇がやってくるんだっけ」
ヒュー。ヒュー。ヒュー。
なんとなく吹いてみたけど、掠れたような音しか出てこなかった。魔王とか犬笛が上手そうだなぁと思いつつ、食堂の鍵を閉めたその時。足元からシュルシュルと音がした。
「え?」
見れば王冠を被った小さな蛇がいる。紫色の体に、緑色の瞳。……まさか、ね。
「あんたバジリスク?」
ピンク色の舌を出してシュルシュルっと鳴いた。バジリスクらしい。オルトロスと同じように負けて小さくなったってこと?
どうしよう。確かあの時は、料理に回復作用だとかなんとか言ってたけど……。
「ええと、なんか食べる?」
まだ穴に刺さったままの鍵を反対に回して、食堂のドアを開ける。バジリスクがまたシュルシュルっと鳴いた。
さてどうしよう。何を作ろうか。




