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3. 魔王城、まさかの



 魔王は、見上げるほど身長が高いのに歩幅を合わせて歩いてくれた。見た目と行動が伴ってない。そして、話しかけることもできず、向こうから話しかけてくることもなく、無言が気まずい。というか、今すぐ殺されてもおかしくない。

 渡り廊下を抜けて、魔王城の裏側のボロい平屋に案内される。大きいけど、お城の厨房には見えない。

 だ、騙されて牢屋に案内されたんじゃ。それとも処刑場なのか。せめて厨房を一目見てから死にたかった……。


「ここが食堂だ」


 内心怯えている私と、至極普通のことのように言う魔王。

 食、堂。誰の。魔王のじゃない。多分他の魔族用。他って、魔王城で働いてる魔族たち。つまり、社員食堂。

 魔王城、まさかの福利厚生がしっかりしていた。


「えぇ……」

「どうした、怖気づいたか」


 こっちが魔王城のホワイトさに驚いているのがわからない魔王が冷たく言い放つ。いやいや、興奮こそすれ、怖気づくわけがない。もはやさっきまでの恐怖を忘れかけそう。だって、侯爵令嬢じゃ入ることもできなかった調理場が、すぐそこにあるんだから。


「いえ、まったく」


 今日は休みらしく、魔王がカギを開ける。たくさんの座席が並び、カウンターも長い。ところどころ壊れていて、古い雰囲気だけれど、埃一つない清潔感。

 本当に、食堂だっ!


「凄い……!」


 興奮のままにズカズカと厨房に入り、まずは手を洗う。そしてぐるりと見渡した、の、だけれども。


「これ……フライヤー!? それにコンベックまで!?」


 なんということでしょう。

 いや、そもそも現代料理自体はキッチンで作れる回復アイテムとしてゲームに存在していた。洋食から和食までいろいろと。でも、まさか、調理機器まであるとは思わないじゃない。


「フ、フライヤー? コンベック?」

「フライヤーは揚げ物を作る、コンベックに至っては蒸す・焼くどっちもできる優れものなんですよ!」


 ドン引きしている魔王の赤い瞳に、興奮でガンギマリな私が映る。

 そしてあの部屋の端のクローゼットみたいなのは……。

 思い切ってガバッと開けた。嘘……。


「つ、冷たい!?」

「……ああ、霊氷庫だからな」

「な、なんであるんですか!?」

「その中に入れておけば食材が腐りにくいだろう?」


 ただでさえ魔王城は湿気が多いからな……って当たり前のように言ってますけどこれ冷蔵庫。よく見ると奥の荷受室とも繋がっていて、両方の部屋から出し入れできるなんて合理的。人間界より先をいってるわ。

 さて、この最高な厨房で何を作ろうか。雨で寒いからあったかいものがいい。それに、あの犬耳共にも食べさせられるくらいたくさん作れるもの。となると霊氷庫の中にある、鶏肉で……。


「っおい、本気で作るつもりなのか?」


 冷蔵庫ならぬ霊氷庫を漁っていると肩を掴まれた。

 いやいや今はそれよりも、本気って。


「それ以外なにが?」

「俺は、包丁などを武器に殺そうとしてくるのかと」


 予想外な言葉に興奮が冷める。

 ねえ、魔王。私、そこまで馬鹿じゃない。言っていいことと悪いことがある。


「包丁で殺すなんて、人のすることじゃないですよ。包丁のことを何だと思っているんですか」

「刃物だが」

「これは、食材のために存在する刃物です。大事な包丁を汚すような真似しません」


 はっきり言ってやると、魔王は驚いたように目を見開いて、でもすぐに何を考えているのかわからない瞳に戻った。

 怖い。いや、ここで負けるわけにはいかない。

 

「……俺は、人間を信用しない」

「じゃあ、なんで連れてきてくれたんですか」


 間髪入れずに言い返す。

 正直、黙らせる方法はいくらでもあったはずだ。それでも好きにさせておいて、最後は要望通り厨房に連れてきてくれている。その、真意は。


「信用しない、が。俺は、人間を食うつもりもないからだ」


 ???

 シリアスな雰囲気を、魔王の言葉を理解できない私が台無しにした。

 どういうこと? 生贄が欲しいんじゃないの? じゃあ、私が断罪された意味は? なんで、厨房に連れてきたのよ。

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