27. ピクシー捕獲大作戦
ジュジュ。ジュワワーーー。つんつん。
箸で温度を確かめてからそっと入れ、油跳ねに気をつけつつ、色を確かめてひっくり返す。香ばしい匂いが鼻をくすぐった。揚げ物は緊張感と期待の戦い。嫌な人もいるらしいけれど、私にとっては至福の時間。
「おいしそうな音がするぅ~~!」
……を、いとも簡単に破壊するのは、やはりジョン。厨房までは入ってこないようにきつく言いつけてあるから配膳カウンターの前で待ち構えている。
「あんたにあげる分はないわよ」
「一個だけ、ね、一個だけ!」
うるさいジョンの口にピンっと放り込んでやる。食べてるときは黙ってるんだし、まあ味見ということでいいか。
フライバッドに乗っているのは小さくて丸いコロッケたち。休みの日の昼間っから、作って揚げて、おやつの時間に間に合わせた。
「食べたんだから手伝いなさいね」
「え?」
用意するのは、お皿、かご、紐、棒。これを持っていろんなところへ。うまく組み立てて、最後にエサことコロッケを置けば古典的な罠の完成。
「わーい!」
「あんたが引っかかってどうすんのよ!」
そうしたら手分けして見張り。手の届くところに二個。合計四個仕掛けた。
さてどのくらいでくるかなー、なんて考えた矢先、青い羽虫がコロッケに齧り付いた。
「ちょっと、何これ! 出しなさいよ! もう!」
口調に反して割と低い声が聞こえてくる。
近づいてじっと見てみれば、赤毛のサラサラロングヘアーで、青いワンピースを着た……あれ、なんか口元に髭生えてない? というかよーく見ると喉仏出てない? 小っちゃいけどゴツくない?
「こんなことして、アタシに何をする気なの!? 仕事ならしないわよ!」
このピクシー、オネエだ。
あんだけ沢山いるピクシーの中で、捕まえたのがオネエ? どんな確率なの?
「いや何をするって……もちろん、報復だけれども」
あの広告ばら撒き事件を忘れたとは言わせない。災転じて福となったけども、許さない。ずっと根に持っていた。
「さてはあんた、働かないピクシーでしょ」
タバサさん曰く、働きアリならぬ働きピクシーの法則というものがあるらしい。よく働くピクシーが二割、普通に働くピクシーが六割、そして二割のピクシーは怠けている……。
「だったらその怠けてる時間、私の元で働かない? お給料もちゃんと出すわよ」
業務内容としては、厨房での小さな手作業。ハンバーグを成形したり、揚げ物を揚げたり。定食の配膳などなど。
「……アタシ一人雇ってどうするつもり?」
「仲間にこの仕事を紹介してちょうだい。ただでとは言わないわ。紹介したら最初のお給料を少し多くしてあげる。これは全員共通よ」
ねずみ講……とは違うから大丈夫なはず。この世界で違法かどうかはしらないけれども。ただの紹介キャンペーンみたいな。
「ただし本業に支障の出ない程度が第一条件。紹介できる相手の条件はあるし、定員もある。定員最後のピクシーには初給料を多くしたのと同じ分、定員達成のお祝いで上げるわ。そして初給料以降は出来高制よ」
そうしてちょっと惹かれている様子のピクシーにずいと契約書を見せつける。
「ちなみに、この罠はたくさん仕掛けてあるから、あなたが断っても別の引っかかった怠け者ピクシーに同じ話をするわよ」
これを作るために魔王に聞きに行ったときの反応は忘れられない。一時期流行っていた宇宙猫みたいな顔になっていた。色々話した結果、特に重要な役割のないピクシーの副業は問題ないらしく、上限数分の給料が私の月の給料から出せる金額であることを話したら渋い顔をしながらも納得してくれた。
「ぐっ……」
「残りのコロッケ全部あげるわ」
「っひとまずここから出しなさい! 契約書にサインできないでしょ!」
勝った!!
ええと契約書に書かれた名前は……。
「ジュリアン……」
「その名前で呼ぶな……。ジュリエットって呼んで♡」
──ピクシーチームリーダーとなったジュリエットのおかげで三日にして定員になり、達成のお祝いが私の財布から飛んでいった。もちろん効率は爆上がりした。ちょこちょこトラブルは起こるものの契約書とジュリエットの統率力でどうにかできている。オネエ最強。出来高制にしてよかった。
……ああでも、それにしても、体が重い。
全員の面接と指導でクタクタになっていたところで、また、食堂のドアが開く音がした。もう、さすがに誰かわかる。