25. ごはん大盛、おかず多め
「ああ、はい。ごはん追加ですね」
あのオルトロス子犬化の後、炭水化物が足りない。
というのも、オルトロスは魔王軍の総監らしく、さっさと治った理由を普通に部下に話したらしい。結果、食堂の料理を食べれば回復できる、というあながち間違っていない話が広まったのだとか。
「……す、すみません。もうないみたいで」
おかげでマッチョなお客さんが増え、こんな困った事態になっている。
露骨にしょんぼりするオーガのお兄さん。本当に、申し訳ない。
「その、払い戻しを……」
「うっす。あざっす……」
一難去ってまた一難。知名度は上がったけれど、食糧が足りない。マチルダさんに聞いたけど、これでももう予算いっぱい使ってるらしいし……。どうにか安く手に入れたいところ……。ほんと、うまくいかない。
「あーーーお腹空いたぁ!」
「ジョン、今日は遅かったわね」
人の流れが落ち着いたところで悩んでいると、いつもは二番手くらいに早く来るジョンが珍しく昼休みギリギリにやってきた。
「ゾンビ軍曹に怒られちゃってぇ……オイラ日替わり定食!」
「もうないわよ」
スッパリと言うと、ジョンはバラバラに崩れ落ちた。そんなにか。
「お、オイラ……、オイラ午後どうやって生きればいいの……」
怒られたのは百パーセントジョンが悪いんでしょうし。自業自得としか。
……まあでも、お腹を空かせたまま働くのは可哀そう。
「とりあえず、私の分のまかないあげるわ」
最近は定食が売り切れてしまうせいで、パスタだけども。今日はクラーケンのイカ墨パスタ。火炎トウガラシが効いていてとてもおいしい。
「わーい! エリザベス様大好き~!」
ほんっとうにこいつは調子がいいんだから。
「割高でお金もらうからね」
「え……」
「冗談よ。普通に八百マネー」
ジョンは喜んで払って、パスタを受け取った途端に席まで飛んで行った。口の周りどころか、跳ね散らかして肋骨まで黒くなっている。ちゃんと拭いていきなさいよ。
「じゃあ午後も頑張ってきまーす!」
「はいはい。ちゃんとやんなさいよ」
お昼の営業が終わって、皿洗い中でも考えるのは食料問題。 日替わり定食の提供できる量を増やしたい。前世は大盛無料とかいう戦略もできたけれど、魔王城ではかなり難しい。米は東の国沿いのエリアから仕入れている輸入品で、かなり高い。
「……ベス」
というか、この高価格もどうにかしたい。社食のパスタが八百マネーはやっぱり高すぎる。大量に仕入れれば少しは安くなるけど、でもそれほどお客さんが多いわけでもない。近場で仕入れられれば輸送費がカットできて……。
「エリザベス!」
「っふぁ!?」
マチルダさんが後ろに立っていた。自分の手にはスポンジじゃなく布巾と毒消しポーション。私いつの間に皿洗いどころか、明日の下処理まで終わらせてたの? もう掃除してるとか、え?
「すみません気づかなくて……」
「昼飯をちゃんと食べてないから、そんな風になるんじゃないのかい?」
怒っているような心配しているような口調でそう言われる。確かに今日のまかないはジョンにあげちゃったけど、元々小食だし大丈夫……。
「少しは休みな。ほら」
渡されたのは手作りキャラメルだった。休憩室の小窓からハナさんがニコニコとポットを見せてくる。
「ありがとうございます」
「……別に食堂係は一人ってわけじゃあないんだからね。ましてやあんたは新人なんだ」
ほらほらと言われるがままに、掃除用具を置いて休憩室でお茶を飲む。キャラメルのじんわりとろける、でもガツンとくる甘みにホッとした。
「私も悩んではいたけど、輸送費か」
「確かに魔界の奥だし、最近はどこも危険だから、高くついてるわよねぇ」
「もういっそここで作っちゃえればいいんだけど!」
とクロエさん、ハナさん、タバサさん。
ここで作る、か。雨か雷雨の二択な魔王城ではできないと思って考えても見なかった。そもそも近くに土地もないし。
ん? だけど、そういえば、現代では室内で作る方法があったような……。
「あの、もしかしたら」
かくかくしかじか、前世のことを伏せて話すと、マチルダさんがこう呟いた。
「これは、研かつ部に行くしかないね」
けんかつぶ……?
「研究開発部、略して研かつ部。四天王のバジリスクが筆頭魔術師を務める、気狂いの集まりさ」
バジリスクって……あの蛇女のところへ??
私、とって食われたりしない??




