23. そうかそうか美味しいか
「食べづらいだろうからカラーは取ってあげるわ」
外した瞬間に噛みつかれそうになったからペシっと叩きつつ。傷口に塩塗っちゃったかしら。いや正当防衛。
「「グルルルル……」」
外してやったというのに敵意を隠さないオルトロス。……そんなよだれ垂らしててもまだ食べないか、強情め。
こうなったら最終手段。
「ご主人様のために毒味しなくていいの?」
そう囁いてやると目の色が変わった。
「おすわり」
「「ワン」」
「ふせ。待て……よし!」
素直に犬らしくパクついたオルトロス。最初は確かめるようにハグハグと。徐々に勢いづいていく。
「「っ!!」」
無限ループにハマったらしく、とてもいいしっぽの揺れ具合。
うん、とっても気持ちがわかるわ。生姜焼きって一度食べ始めると箸が止まらなくなるのよね。
ピリピリピリッってまるで炭酸みたいな爽やかな生姜の辛みが、豚肉の甘じょっぱさと最高に合う。すると、お米が進む。そしてまた生姜焼きを求める。口の中が濃くなってきたところでチェイサーならぬ、レタスとアスパラガス。瑞々しい甘さと食感でリセット。
「美味しいか?」
「「ワンッ!」」
「そうだよな、美味しいよな」
魔王が問いかければこの一言。犬語はわからなくても、これはわかる。
勝った!!
「うまかった」
「はい、お粗末様でした」
魔王は先に食べ終わってニコニコ。いつもその顔でいればいいのに。
密かに観察していると、オルトロスをワシワシと撫でて、トレーを返却口の方へ持っていった。……普通に自分で片付けているけれども、この人、魔王なのよね?
まあ、ありがたいからなんでもいいか。そろそろオルトロスも食べ終わって……。
ボフン!
突然の煙がオルトロスを包む。
徐々に晴れて見えるのは、茶髪、褐色の肌、短い眉、ムキムキな胸筋。
あの可愛かった子犬が、人型に戻ってしまった。
「なんだか体が熱くなって……戻っている」
「なんだァ、この回復力は」
グッパグッパと手を握っては開いて感覚を確認しているらしきオルトロス。いや、ごはん食べれば回復するのは当たり前なんじゃないの?
「何か混ぜたのか?」
「何入れやがったテメェ!」
あれ、詰められてるのに怖くない。犬っころ姿を見たから?
「普通に生姜焼きを作っただけよ。……というか服着なさいよ!」
いや、まずはまっ裸なことを気にしてほしい。考えてみると、ゲームの四天王戦の時は獣姿だったわけだから、わざわざ服を脱いでから戦いに臨んでいたんだろうか。考えてみると非常にシュール。
意外と堂々としてるおとなしい方は置いておいて、なぜか恥ずかしがっているオラオラしてる方のために後ろを向いてやる。会話を聞く限り、魔王が転移魔法で取ってきてあげている様子。
「もうこっちを見てもいいぞ」
魔王の一言で振り向く。ちゃんと服を着ているオルトロス共。
「おそらくだが、エリザベスの料理には回復作用がある。俺も見ていたが、なにかを入れている様子はなかった」
淡々と教えてくれる魔王。
回復作用?? 熱くなったのは生姜の辛み成分、ジンゲロールのおかげなんだけれども……、めんどくさいから黙っていましょうっと。
「……疑ってごめんなさいは?」
すぐに私を悪者にしたがるオルトロス共をじっとりとした目で見る。
「まあ、その、今までも、悪かった」
「ッチ! うまかったぜェ」
一人謝罪じゃない気がするけども、まあ嬉しいからいいわ。
「一飯の恩義を忘れるほど馬鹿じゃない。何かあったら呼んでくれ」
「おかげで回復できたからなァ!」
どうやら認めてくれるどころか、格付けまで変わったらしい。意図せず使いっぱしりが増えてしまった。犬って上下関係しっかりするタイプだったわ、そういえば。
「ボクがジョージ」
「チャーリーって言うんだぜェ」
名前まで教えてくれた。先に喋ってる比較的おとなしいのがジョージ、オラオラ系のチャーリー。二人合わせてオルトロス。なるほどねぇ。
「では魔王様。報告書はボクが明日提出します」
「オレは字が書けねぇからなァ!」
そうして、魔王がまだ休んでいていいというのも聞かず、オルトロスは嵐のように去っていった。残ったのは、魔王と私二人だけ。
元はと言えば、話があるとかなんとかだった気が。せっかくいい感じの雰囲気だったのに……。生姜焼きでチャラってことにならないかしら。




