21. これがほんとのエリザベスカラー
「……なに、この犬」
顔を上げれば、ふた首の子犬を抱えた魔王がいた。とってもシュール。というかいつの間に。
犬は私と目が合うなり吠えようとしたけど、魔王に撫でられて溶けている。どうやらテクニシャンらしい。
「オルトロスだ」
「……おるとろす」
このかわいいジャーマンシェパードドッグが?? あのチンピラ四天王?
「ど、どうしちゃったの、これ」
「聖女に負けた」
労わるように背を撫でながらそう言う魔王。あんだけ大口叩いておいて、負けたのね。いやまあ序盤のボスだから当たり前なのだけれども。
「で、ちっちゃくなっちゃったの」
「負けたことによる魔力不足で獣化した。わかりやすく言えば魔力相応の姿になっている」
つまりこんな子犬になっちゃうくらいコテンパンにやられたってこと……?
いや、今はそこじゃないか。
「そ、それで? なんでここに?」
「話があるといっただろう」
あの心臓マッサージ未遂の時の……! と思い出して処罰の文字が頭をよぎった、のにアホな顔で溶けている犬で微妙に怖くない。
じゃあなんで犬抱えてんのよ、とばかりに赤い目をじっと見る。魔王が子犬抱えているのはおかしいってことにやっと気づいたらしい。
「聖女戦で傷を負ってしまってな。駄目だと言っているのに傷を舐めてしまうから、ここ数日は抱えて過ごそうかと思っている」
だから気にしないでくれってそんな真顔で……。気にするわよ。
二頭に顎をベロベロ舐められてる魔王とか。このわんこ共たち、魔王のこと好き好きオーラが凄い。この状況で話なんて聞けないっての。
「不便じゃないの?」
「俺が面倒を見るからと飼った犬だ。仕方がない」
まさかの魔王の飼い犬だった。
でも、それ、四天王。今は小っちゃくなってるけど、ゲームだともっと厳つい怪物。
まあ確かに犬って傷舐めちゃうし掻いちゃうわよね。前世で小さい頃に犬飼ってたからわかるわ。そういう時に確か……。ハッ!
「? どうした」
「ちょっと待ってて。いいの思いついたから」
ポカンとしている魔王をおいて、急いで休憩室に戻る。まずは荷紐を拝借。それから、今朝ハナさんからもらった娘さんの古着。あと新聞、ハサミ、スナップボタン……。
「魔王様、オルトロス押さえてて」
「おい、何を……」
紐で首の長さを測って、新聞紙で適当に型紙を。こう古着の首の部分を合わせてチョキチョキ。ほつれないように端を縫って。ちょうどいいところにボタンをつけて。
「よし!」
あとはオルトロスに巻くだけ。これがほんとのエリザベスカラー、なんてね。
「「ワン!」」
「暴れたって無駄よ」
必死に取ろうとするオルトロス。ああなんて滑稽。今までの恨み。悪く思わないでよね。
「これで抱えてなくても大丈夫なんじゃないの?」
「「ガルルルル……」」
「ふふん。噛めるもんなら噛んでみなさい」
無理でしょうけれど。エリザベスカラーによって、大好きな魔王の抱っこはもう必要なくなったのよ。
だって、怒られるのだとしてもなんだとしても、あんまり人に聞かれたくない。オルトロスに弱みを握られたくない。
「まあ、これなら……」
グギュルルルルル……。
空気の読めない音が、犬の腹から鳴った。
驚いたように瞬きをする魔王。黙り込むオルトロス。
「……おなか、空いてるの?」
くっ。お腹を空かせているって知った途端、可哀そうな傷ついた犬に見えてきた。
数少ない在庫のあるお肉。犬だから熱いのは火傷しちゃう。それに回復もしやすいものがいい。……というと、あれだわね。新メニューにしようとしてたやつ。
「ちょっと作ってくるから待ってなさい」




