19. 一割引きクーポンですよーー!
「オイラ、もうハサミ持ちたくない……」
「よかったわね、今日は違うわよ」
ジョンに大量の紙を手渡す。昨日の私の努力の結晶。損しても取り返せる範囲かどうかの計算や作り直しなどなど、深夜まで大変だった。
【10%OFF!】
とデカデカと書いてあるクーポン付きチラシ。マチルダさん作の地図とイラストでイメージもしやすくしてある。最初は私がイラストを描いていたのだけれども、取り上げられた。怖いって……確かに前世の美術の成績は三でしたけども。十段階で。そしてマチルダさんのイラストはうまい上に温かみがあってとても意外。
「これ全部配るんですかー?」
「早く終わったら新メニュー候補を食べさせてあげるわよ」
「さあ行きましょうエリザベス様!」
まったく、現金な奴め。
ジョンはもう遠くに行ってしまった。骨だから身軽。私の分の仕事をすると言ってくれたタバサさんにお礼を言って、追いかける。何をしでかすかわかったもんじゃない。
「ここが一番人通りの多い廊下ですよ」
……凄く時間がかかった。早めに行こうと思ってたのについたらちょうど。みんな早歩きで急いでいて、前世の駅みたい。
どうしよう。この中で宣伝って、ちょっと、無理。怖い。路上ライブとかしてる人の気が知れない。そういえば私ってコミュ障だった。
「……エリザベス様って案外内弁慶なんですね」
黙り込んだ私を見てそういうジョン。くそっ。チラシ作戦第二弾の時も手伝わせてやる。
「おっ、ジョンじゃねえか。ここで何してんだよ。今日休みなんだろ?」
「デュラハン~、オイラこれ配り終わるまで帰れないんだよぉ」
静かに怒りを燃やしていると、首無し騎士がフレンドリーにジョンに話しかけてきた。連れと他人が喋っているところにいるって、とても気まずい。
「何々……、へー、食堂なんてあったんだな」
「今ならじゅっぱーせんとおふ、らしいぞ」
「お前意味わかってないんだろ……」
呆れた様子のデュラハン。それでもチラシの内容を読んでくれて、明日行ってみるわとまで言ってくれた。私は最後まで透明人間だったけれど、とりあえず一人ゲット。
でもジョンに負けてるってなんだか凄く癪。
「食堂全品十%オフ! お昼に食堂はいかがですかーー!」
意を決して大声を出す。ジョン曰く普通の大きさ。うるさいわよ。
徐々に人が寄ってくる。無言で受け取る人もいれば、反応してくれる人もいて多種多様。クーポンが効いてるみたいでチラシはどんどんなくなっていった。
「期限付きかぁ。まあ安くなるんなら行ってみるかな」
……ジョンの持っている分だけ。私のは一、二枚減ったかな、というくらい。
「チッ!」
大抵の人からは無視される。睨まれるのも同じくらいよく合って、舌打ちをされたり、唾を吐きつけられたり。髪を掴まれもした。
「おまえのっ、おまえらのせいでっ!!」
まあ、予想していなかったわけじゃない。唾は汚いから嫌だけれども。
髪を結びなおしているとジョンがおずおずといった様子でこっちを見上げてきた。こいつのこんな態度気持ち悪い。
「エリザベス様……」
「食堂のクーポンはいかがですか? 全品十%オフです!」
気遣わないでほしい。死にたくなかったからとはいえ、私が自分で選んだ道なんだから。
視線に気づかない振りをして配っていると、突然青い羽虫のようなものが群がってきた。え、何? いやこれ人型だわ。
「わー、人間が何かやってるー」
「これなんだろー?」
「ゲッ! ピクシー!」
ジョンが逃げようとするのを捕まえる。ピクシーって妖精よね?
なんで逃げる必要が……。
「えいっ!」
気が付けば、手の中にあったはずのチラシが宙に浮いていた。
「ほらもー早く逃げないからー!」
「は?」
「あいつら悪戯好きなんですよ!」
ピクシー共は可愛い声でクスクスと笑っている。
「いっぱいあるね」
「いっぱいあるよ」
「……じゃあこうしちゃおう!」
どこからともなく吹いてきた風に飛ばされていく。一枚は見知らぬスケルトンの顔に張り付き、もう一枚はミミックに食べられて。どんどん飛ばされ消えていくチラシ。
────このせいで、とんでもないことになるなんて思ってもみなかった。




