18. ジョンには髪がない
「そもそも知られてすらいないんじゃ……?」
どんなにおいしいお店でも、知らなかったら行けない。世の中に広告があふれている理由だ。でも、まさか社食が知られてないなんて思わないじゃない。
「ここって最近できたとかなんですか?」
「いいや、先代魔王の頃からある歴史ある食堂さ」
マチルダさんが言うのなら間違いない。というか、じゃなきゃこんな年季の入った建物じゃないだろうし、昔は活気があったって魔王があの日に言っていた。
「ジョン、あんたも昔から使ってるって感じなの?」
「いんや、オイラそもそも新入りだし……。ここはゴーレムに教えてもらったんです」
じゃあ、ジョンも人伝てに知ったってことになるのか。ますます、謎が深まってきた。
「原因は、多分これだ」
いつの間にか近くに来ていたクロエさんが、マチルダさんに城内マップを手渡す。そしてスタスタと持ち場に戻ってしまった。相変わらずクール。
どれどれ、と広げられたそれを見て、今更気づいた。
……食堂は寮から近く、そして魔王城の外れにある。
「なんでこんなところに……」
「搬入口が必要だからだね。だからといって、正面口に作るわけにもいかないだろう」
それもそうだ。でも、これじゃあ食べに来るだけで昼休みが終わってしまう。人気がなくなった食堂は、そうして忘れ去られて行ってしまったのか。
いや、というか……。
「ジョン、あんたよく毎日食べに来てるわね」
驚くべきことに、ジョンの働いている古の戦場エリアは食堂から一番遠くにあった。普通だったら食べに来ない。なのに毎回二番手くらいに早く来る。なんなんだこいつ。
「えー、だってオイラ毎日楽しみがないと働いてられないもん」
ケロリとそう言うジョン。恐るべし食への執着。なんて能天気。
「でも仲間はつまんないですよ。飯の時間だって言ってんのに、みーんなアンデットなんだからそんなに必要ないだろって。それより持ち場を守れって」
「そんなに激戦区なの?」
「忙しくはあるけど、大抵のやつらは影の中から襲い掛かった瞬間にやられていくし……。たとえ逃したところでギガンテス様で一発KO ですよぉ~」
ああ、そういえばゲームでもそうだったな。初見殺しの古の戦場エリア、そこを何とか抜けたと思ったら最後の四天王戦、ギガンテス。範囲攻撃の耐久戦で大変だった。
「エリザベス様?」
「えっ? ううん、なんでもない。状況はわかったわ」
魔王の言ってた通り、飯は二の次なのね。
さてどうするべきか。食堂を周知させる……ポスターとか? でも見たところで遠くて高いところに行こうとは思わないわよね。何か、得にならないと。
ん? 得? ……そうだ。
「何か思いついたのかい?」
「はい!」
ふっふっふ。これは、いけるかもしれない。
「ジョン、あんた今日の仕事終わったらここにきて」
「味見係!?」
「そんなおいしい役目あげるわけないでしょ、罰なんだから。あんたには永遠に紙を切ってもらうわ」
ジョンでもできるような簡単なお仕事よと言えば、ジョンは震えあがり、頭蓋骨を外して大事に撫で始めた。
え、何?
「……お、オイラ髪なんてないのに!?」
「っそっちの髪じゃないわよ」
ペーパーの方だっての。
前世では、新聞に挟まれたチラシについてたり。チャットアプリで通知がきたり。あったらなんとなく使いたくなる。そんな、使うとお得なものがあった。
「さて!」
打開方法を思いついたところで、仕事をしなきゃ。まずは目の前のお客さんから。とはいえ、今日は晴れやかな気分で芋が洗えそう!




