15. 愉快なおばさん四人組
今日も魔王城は大雨だ。ただ、朝起きるときに肌寒さがなくなってきた気がする。
いつも通り、少し早めに出勤。休憩室でエプロンに着替えて、一通り消毒。アルコールまであるの? と最初は驚いたけれど、まさかの毒消しポーションだった。キュポンと開けて、垂らして拭く。
そうして全部消毒し終わって、セルフの水のやかんを用意したところで、おばさま達がやってきた。
「おはよう。今日も早いわねぇ」
あのカレー以来、マチルダさんに認められたことで、おばさま達も話してくれるようになった。
この小さくて優しいおばさまはハナさん。オークなのに気が弱くておっちょこちょい。我が社食スタッフの癒し枠。あの某せんべいのおばあちゃんみたいで、小さい眼鏡がトレードマーク。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
礼儀は大事。特に女社会では。侯爵令嬢として、嫌というほど学んだ。
「ハナさん、ミーティング始まりますよ」
「え、ああごめんなさい。今行くわ。エリザベスちゃんも行きましょう」
「はい」
いま声をかけてくれた、痩せてて背の高い人がクロエさん。いつも口をキュッと結んでいて、ベリーショートのクール系。肘とかで小突いてそれとなくサポートしてくれるのは大抵この人。マチルダさんの鎮静係でもある。他のおばさま方が言うには、年に一回くらい怒りが爆発するから気を付けた方がいいらしい。
「今日のまかないも楽しみだわぁ~。いや、これで、脂肪も増えないでいてくれるとサイコーなんだけど」
ミーティングが終わってすぐまかないの話をするタバサさん。噂好きのおちゃらけ担当。THE・明るいおばさん。面白い分、何かあったときに火に油を注ぐ人でもあるのだとか。
「エリザベス、そっち終わったらこっちを手伝いな!」
「はいっ」
そしてマチルダさん。言わずもがな、食堂のボス。みんなマチルダさんには逆らわない。
おばさまというのは平和主義者である。だからこっそり、相手がいない時にお互いの地雷を教えてくれてありがたい。向こうから話しかけてくれるし。
下処理、調理、一通り全部終えて、私は今日も配膳室に立つ。芋洗い係から随分と出世したものだ。
「エリザベス様ー、今日の日替わりなんですかー?」
「冥界牛のハンバーグ……ってジョン、あんたそこに書いてあるでしょうが!」
おバカなジョンに本日の日替わりの黒板を指さす。「いっけね」とか抜かしてるジョンからお金を受け取って、よそって、トレーに置いて。相変わらずガラガラな食堂内の、少ないお客さんたちの食べてる様子をチラチラと見る。この席が、埋まるように頑張らなくちゃいけない。
「ごちそうさまでしたー!」
「はい、お粗末様。あんたちゃんとアンケート取ってきてよね」
「はいはーい!」
ランチタイムが終わったら明日の仕込み。そして洗い物。荷物を受け取って仕分けもする。マチルダさんはその間に売り上げを計算して、食材の発注。食材の高騰に渋い顔をしていた。今でも社食とは思えない値段なのに……。
それでも他の仕事も色々終わらせて、最後に掃除。
「おつかれさま~」
「お疲れ様です」
そしておばさま達は定時に退勤。機材を覚えたいから私は残る。まだまだ、大さじ小さじとかじゃなくて大きなカップで調味料を入れたりするのに慣れない。それに、安くて話題になりそうな新メニューも考えなくては。四天王打倒のためにも。
うんうん唸っていると、ドアの開く音がした。デジャブ。迷うことなくバンと開ければそこにいたのはやはり魔王。
「こんばんは」
「……ああ、こんばんは。タイムカードは」
「切ってあるわ。趣味でここにいるから」
イケメンって眉根を寄せても絵になるのずるいわね。
「というよりも、またどうしてここに?」
黙り込んでしまったから、とりあえず話を逸らそうと聞いてみる。
「スケルトンを素手で破壊し、頭蓋骨を持ちまでしたと聞いたのだが」
あっ、やばっ……。




