14. ジョン、それは下僕
「っそれは! 新人には荷が重すぎますよ。ここは……もう……」
急に顔色が悪くなるマチルダさん。食堂の方にいるのに、厨房までもがお通夜の雰囲気になっているのがわかる。なんだかとっても嫌な予感。
「え、ど、どういうことですか?」
急に変わった空気についていけないまま、バックヤードの方に連れて行かれた。
なんでも、この食堂はずっと赤字続きで、財務担当の四天王ことグリフォンが来年度には廃業にする案を出したのがついこの間のことらしい。魔王が待ったをかけてくれたおかげで、まだ正式には決まっていないけれど、議決権を持つ四天王は全員賛成派らしく……。
まさかの廃れているどころか廃業寸前? 勘弁して??
「しかし、ここがなくなるのは我輩も悲しい」
バックヤードまで普通に入ってきているおじいさん。いくら常連でも流石にここに入ってきてはダメなのでは?
「新人だって、職場を失っては困るだろう」
それはそうですけど。というかもう二度と失いたくない。転職が当たり前の世の中とかいうけど、それは選ばれし者にしかできないから。私みたいに運もスキルもない人間を雇ってくれる会社が存在してるだけでも奇跡だから。
「どうせ一年なんだ。やれるだけやってみたらどうだ?」
マチルダさんが唸る。そしてその後ろでポカンとしているジョン。なんであんたまで入ってきてんのよ。
「現に、このカレーとやらは新しかったし、お前が作るのを許したくらいなんだ。ちゃんと考えられていたのだろう」
マチルダさんが眉根を寄せて、また唸る。そしてひとしきり悩んだらしき後、パァンと膝を叩いてからまっすぐに私を見た。
「やってやろうじゃないか。どうだい、やる気は、あるかい?」
「っやります!」
というかやらせてくださいお願いします。元々魔王の前でそうして見せるって啖呵切っちゃってます。じゃないと生贄に逆戻りです。言う手間が省けました。
「うむ。新メニュー楽しみにしているぞ」
「それが目的で……」
「いやいや、マチルダ。まさか、そんなわけないじゃないか」
長い付き合いを感じさせる会話を小耳に挟みながら、考える。
一年以内に食堂を立て直して、四天王に認めさせればクリア、か。
ん? てことは倒すべき敵は、四天王ってこと? あれ、でも私、四天王相手にアホみたいに啖呵切っちゃってたような……。グリフォン……翼男に至っては殺されかけたような……。
「あ、あの、オイラもう帰ってもいいっすか?」
サァーと血の気が引いたところで、空気の読めないジョンが手を挙げて元気にそう言う。途端に存在と所業を思い出す我々。
「そういえばまだ罰を決めてなかったね」
「減俸とかどうだろうか」
「いやいや、生ぬるい。一年間便所掃除とか」
マチルダさんとおじいさんが至極真面目な顔で話し合っている。え、さすがに冗談では?
「エリザベス、あんたは何がいいと思うかい?」
いや、そんな急に言われても……。
ジョンがタスケテ……と視線を送ってくる。目なんて無いくせに。
でも、仕事でミスしたわけじゃないのよね。人道というかもはや生き物としての道を踏み外しかけただけ。いや、十分悪いな。とはいえ、もう殴られてもいるし。
「わ、私の小間使い、とかどうですか?」
そういえば前世ではパシリという概念が存在した。一歩間違えれば私がなっていたようなやつ。
思い付きのように言うと、ジョンが私に向かって拝みはじめた。そんなに嫌か、減俸と便所掃除。
「それは、どうやって使う気だ?」
「ええと……」
ちゃんと罰にならなきゃ許さない、という雰囲気なおじいさんとマチルダさん。ジョンを許して罪を許さず、と私も思っているけども。
どうしよう。人生ソロプレイしかしたことないからわからない。そもそもコミュ障……。でも、立て直すために……。ああ、そうか。
「食堂利用者へのアンケートをジョンに取らせに行かせます」
まずは利用者の声を聞いて、着実に改善していく。良いことを思いついたと思っていたのに、おじいさんとマチルダさんはヒソヒソ。
え、もちろん労働時間外に行かせますよ? ただ働きですよ?
「……しょうがないねぇ。ちゃんとコキ使うんだよ」
「ハ、ハイ!」
こんな会話人生で二度とないだろう。いや、逆にあったら困る。
「あんけーとって何だぁ?? 食べ物??」
……このアホは、コキ使おう。そうしよう。
──そんな会話を、三人の魔族は静かに聞いていた。




