13. 許さんぞ貴様
ガンガラガッシャン!
「こぉんの骨クソ野郎! 食べ物を粗末にするんじゃないっ!」
気が付けば、にぎり拳で頭蓋骨をぶっ叩いていた。スケルトンは崩れ落ち、バラバラになる。どこか冷静な部分がやめろと言っているのに、口は止まらない。
「んったく口を開けば人間人間人間人間……食べ物にはなんの罪も確執もないでしょうが! 生産者さんと加工している方、梱包してる方や問屋さんに謝んなさい!」
「え、え……?」
困惑してる様子に腹が立つ。人間が嫌いなのは別にいい。でも調理以外は魔族がやっているのだから謝れるはずだ。何を迷う必要があるのか。
「今、すぐに!」
「ご、ごめんなさい?」
スケルトンは口をガシャガシャ揺らしながら、私を見て謝る。違うわ! このボケ!
「私じゃなくて食すべてに関わってる魔族に謝れって言ってんの!」
「っごめんなさい!」
しゃがんで、頭を持ち上げる。軽い。脳みそ入ってないからこんなバカなことできるんじゃないの?
「好き嫌い、食べ残し。大いに結構! おいしいものを苦しんで食べる必要なんかないもの!」
目と目を合わせてお話しましょう。ああスケルトンにそう思っても不毛か。目、ないし。
「人間だからって邪険に扱われたっていいわよ! だってこれは私が選んだ道で、嫌っている人達の中に、私がわざわざ入り込んだのだから!」
そう、マチルダさんに認めてもらえないのだって、人間が作ったごはんと知った途端、食べるのをやめられるのだって、しょうがないことだ。
「でも、だからってなんの罪もないごはんを、いたずらに扱うことだけは、許さない」
床に落として、あまつさえ踏む? 許さんぞ貴様。何様のつもりなんだ。恥を知れ。
「わかったら返事」
「……はぃ」
「声が小さい!」
「はいっ!」
スケルトンはいつの間にか元に戻って正座していた。フーーと深く息を吐いたところで、おじいさんに肩に手を置かれ、ハッと我に返る。
……や、やってしまった。やらかしてしまった。恐る恐る配膳室の方を見れば、オークどころか鬼の顔で迫ってくるマチルダさん。ミ゜ッ!
「……あんた、名前は」
パチパチと瞬きを数回。名前聞かれてる?
「え? エリザベス、です」
答えるとマチルダさんは手を振り上げ……勢いよく私の背中を叩いた。
「エリザベス、よく言った」
そのままマチルダさんは……バァゴォン!
スケルトンにでっかいげんこつを落とした。またもやバラバラになるスケルトン。びっくりして多分間抜け面になっている私。なんかニコニコしてるおじいさん。
「エリザベス、あたしは人間が嫌いだ。旦那も息子も、人間にやられちまった。……でも、あんたは、こんなやつよりよっぽど骨がある」
骨がある。いや、骨なのはこいつですけども。というか、今、私、マチルダさんに認められてる?
「ジョン、あんたァ、こんなことして! 覚悟しな!」
その説教は、まあ、凄いものだった。スケルトン……ジョンは、別に人間に何されたわけでもなく、ただ敵だからという理由でこんなことをしたらしく、余計に。マチルダさん怖い。でもジョンは果てしなく自業自得。
「大変申し訳ございませんでした、エリザベス様……」
「え、ええ。許しはしないけれど、私は、ごはんを粗末にしなければそれで……」
「もう二度としません~」
ジョンが半泣き状態でそう言うと、マチルダさんはフンと鼻を鳴らした。
「エリザベス。ようこそ、魔王城食堂係へ。……その、疑ってて、悪かったよ」
目を一度そらして、でもまっすぐに私の目を見てそう告げるマチルダさん。この騒動を見守っていたお客さんたちが拍手を贈ってくれる。あ、どうも。……いや、どういう状況なの、これ??
「というわけでマチルダ、このカレーは新メニューになるのだろう」
「ええ、もちろん」
「なら、もう一つ提案だ」
おじいさんとマチルダさんの会話についていけない。怒り狂ってしまったのに、状況が好転しまくっている。
「この期待の新人で、食堂を立て直してみてはどうだ?」
……?? あれ、私今寝てたっけ?