12. じゅわっとピリッとスパイシー
「なんか、いい匂いする! 今日オイラの好きなスパイス焼きだったりして~♪」
「いやお前スケルトンなんだから、肉と一緒にスパイス纏う側だろ」
食堂のドアが開いて、廊下の軽口が聞こえてくる。今日も一番乗りは竜のおじいさんだった。
それにしても、初めてまじまじと見たわ。悪魔みたいな長い角に、とんがった耳、竜みたいなひげにしっぽ。……年をとっていてもわかる整い具合。若い頃はさぞかしモテただろう。
「それで、新メニューはできたのか?」
お財布と配膳トレーを持って尋ねるおじいさん。ええ、よくぞ聞いてくださいました。
「はい。こちら、怪鳥カレー。値段はシチューと同じです」
小銭をトレーで受け取って、お皿にほかほかごはんをよそう。そしてその上に……行けスライスアーモンド! 最後にカレーをかけて……。
「ほぉ……変わった料理だ」
おじいさんは受け取ると、スタスタと定位置らしきの奥のカウンター席へ向かっていった。配膳をする手はちゃんと動かしながらも、内心そわそわでおじいさんが食べるのを見守る。
「あ、オイラもその新メニューで」
「はーい。お金、ちょうどですね」
チラッ。
おじいさん、まずは魔王と同じく祈りを捧げて、そしてお肉をパクリ。おっ、嬉しそう。パリッとじゅわっとスパイシーな怪鳥肉はクリア。
「へっへー。ラッキー」
「お、うまそうだな。俺も火山豚のソテーじゃなくて、そっちにすりゃよかったかな」
次にアーモンドスライスとごはんとカレーを一緒に……。よしよし、驚いてる!
トマトと鳥肉は合うんです。でも、ナッツと鳥肉も相性抜群。つまりトマトと鳥肉とナッツで足し算しても合うんです! ね、おいしいでしょう??
「んお! うまっ! 今日はにんじん、食べなくていいぞ」
「いや、苦手なものくれる以前に一口味見くらいさせろよ」
さっきの小さいスケルトンがはしゃいでいる。違う卓でも好評なようでなにより。相方のゴーレム君、いつもにんじん食べさせられてるのね。
しかし、カレーの罪深きところは野菜までおいしいところにある。たまねぎの甘さと、とろりとした人参、しっとりほっくりなじゃがいも。カレーの味が強いし、野菜の色も割と隠れるから、嫌いな人でさえ食べれちゃったり。
「……ごちそうさま」
!?
いつの間にか食べ終わっていたらしく、返却口のところにおじいさんが。隣のおばさまに肘で小突かれて、慌てて食器を受け取る。
「お、お味はいかがでしたか?」
「うん。鳥肉はうまいし、スパイシーなのも飽きがこない。若いの、よく考えたな」
ニッと笑ってそう教えてくれるおじいさん。
……よかった。昨日の深夜までの考案は無駄じゃなかった。これならクビにもならないだろう。
「もちろん、メニューになるんだろう?」
なります、と言えたらいいけども。なんて返せばいいのかわからず、曖昧に笑う。
こればっかりはどうしようも……。私に決定権はなくてですね……。
「マチルダ、いい新人が入ったじゃないか。メニューになるんだろう?」
「え、ええ。まぁ……、その……」
困っているのを察してくれたおじいさんが厨房のマチルダさんの方を見てそう言う。マチルダさんは目を逸らして、口をもごつかせた。その様子におじいさんがため息をつくと、しぶしぶ口を開く。
「人間の、割には、頑張ってくれているかと」
「……マチルダ、おまえ」
なんだか妙に居心地の悪い空気の中、ベシャッっと、何か音がした。
「う、嘘だろぉ! これ人間が作ったのかよぉ!」
反射的に、音の方を見る。無惨にも床に飛び散ったカレー。ぺっぺと吐き出すような真似をしながら、お皿を振って、カレーを踏むスケルトン。
……ここへきて、何かがプツリと切れたような気がした。




