11. これって匂いテロだと思う
というわけで、おばさま方に監視されながら始まったチキンカレー作り。第一優先事項は、ほかの調理している人の邪魔にならないこと。時間を守ること。
まずはお米の準備。大きくて浅いお鍋に合ではなく升の量の米を入れる。軽く研いで……いやこの量だと割と重労働。1.2倍くらいの容量の水を入れて、このまま浸水させておく。
「すみません、これ、このままここに置いておいてもいいですか?」
「なんでだい!」
「お米は浸水させておくとおいしくなるので」
……沈黙は肯定として受け取る。待ってたら時間が足りなくなっちゃうし。
さてさて、次は材料を切る。これが終わったら米は弱火にかけるくらいでちょうどいいだろう。
玉ねぎはくし切りに、にんじん、じゃがいも、鶏もも肉は一口大。ショウガをおろして。
それにしても、耳にずーっとトントントントン……って包丁の規則的な音が聞こえる。手は疲れるけど幸せだわぁ。
「お肉通りまーす」
全部用意し終わったところで再登場の寸胴鍋。サラダ油をひいて、おろしショウガ、その上に鶏肉を投入。これで鶏肉をパリッと焼く。そうしたらさっき切った大量の野菜を、にんじん、たまねぎ、じゃがいもの順に入れて、たまねぎとじゃがいもの表面が透き通るまで焼く。
「……フライパンも使うの?」
「場所を取ってしまってすみません。すぐ終わりますので……」
小声で隣のおばさまに言われたので、そう返しつつ着火!
昨日計量しておいた、バターを熱する。そこに薄力粉を加えて弱火で焦がさないように炒める。カレー粉から作るレシピは、前世でルーを切らしてしまった時に調べて知った。
薄力粉&バターが薄茶色に色づいたら、火を止めてカレー粉を加えて混ぜる。うーん、いい匂い。
「……スパイスってやっぱりいい匂いだわぁ」
「食べたくなっちゃうのよねぇ」
あたりから匂いを嗅ぐ音とおばさま方の世間話が聞こえてくる。わかる。夕方とかの住宅街のカレーの匂いはテロだと思う。夕飯をカレーにすればよかったと後悔する瞬間……。
「っ!」
危ない危ない。カレーの魔力にやられるところだった。集中、集中。
寸胴鍋チームに水を加えて、鳥ブイヨン、トマト缶を入れた後、フライパンのカレールーを少しずつ入れる。お味噌汁を作る時に、味噌溶かすみたいな感じで。全部できたら砂糖と塩を加えて味を整えて。味見。
「うん!」
んまい! 魔界で食べられている鳥……高山エリア産の怪鳥は、柔らかくも弾力があり、なにより旨味がぎっしりなのが特徴。その鳥ブイヨンとトマトが合わないわけがないんだよなぁ……。カレー粉から作ってるからスパイシーさが増しててこれもグッドポイント。辛すぎず、でも辛いのが好きな人でもきっと満足してもらえる。
「……できたのかい」
浸っていたら後ろでマチルダさんが仁王立ちしていた。そのままお玉を取られ、味見される。緊張してきた。
マチルダさんは目を丸くしてから、何やら何度か頷いて、私の顔を見てから顔を顰めた。
「配膳室に運びな」
そうして悩んだ末にそう吐き捨てると自分の持ち場に帰っていった。多分、認めてもらえた……のだと思う。結局、人間で生贄な私がやっていくには、こういうのの積み重ね、が必要なのかもしれない。
「……よし」
今日おじいさんにもおいしいと言ってもらえれば、もっと進展するかもしれない。
とりあえず、カレーの完成。ここで最終兵器のアーモンドスライスもローストしまして。米も含め全部配膳室に運んで……。
さあ時間は……早め早めと思っていたけれど、それでもギリギリ。やっぱり、熟練のおばさま方に手の速さでは敵わない。
ボーン! ボーン!
壁掛け時計がお昼を知らせる。食堂の外からは足音が聞こえてきた。
……さあ、戦いのはじまりだ。とくと味わえカレー攻撃。




