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第3話「筋肉!! 筋肉!! 筋肉!!」

『観戦武官』


 という役職が存在します。

 ファンタジー世界だけの話ではございません。

 地球の歴史でも、度々発生した役職ですわ。


『観戦』


 というとサッカーの試合でも見るようなイメージを持たれがちですけれど、近世~近代では、他国同士の戦争を第三国が、自国の軍事研究のために観戦するというのは極めて普通のことでしたの。

 日露戦争で旅順港閉塞作戦を立案した秋山真之が、敵軍港の入口で船を沈めて敵艦隊を閉じ込めるという手段を米西戦争の観戦で学んだ――という話は、大河ドラマにもなった『坂の上の雲』で有名な話。


 戦争ですから、もちろん流れ弾で死ぬリスクもございます。

 実際、死んでしまった観戦武官は数知れません。

 が、近代までの戦争はあくまで外交の一手段。

 講和ありきの戦争。国際条約に守られた戦争です。

 白旗を上げた相手を撃ったりなんてしませんし、軍服を着ていない民間人を殺すなんてもってのほか。


 戦争が太平洋戦争や独ソ戦のような、民間施設を爆撃したり、民間人が竹槍を持って突撃するような『絶滅戦争』に発展してしまったのは、第二次大戦以降の話。

 それは、こちらの世界でもそうなのです。


 とまぁ、ここまで説明しておいて何ですが、わたくしはバリバリのビザンティヌス帝国人。

 敵兵がここまで来たら普通に殺されますし、捕虜になってしまうと外交カードにされてしまいます。

 だから、最前線の数百メートル後方の小高い丘から観戦するわたくしは今、銃剣付きのマスケットでしっかり武装しております。

 防御結界魔法が付与された小盾も装備しておりますわ。

 そうして、双眼鏡で観戦するわたくしの視界の先では――





「ウヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!! 筋肉!! 筋肉!! 筋肉!! 筋肉!!」





 アイゼンベルク辺境伯領軍の最前線。

 立派なお馬さんに跨った、上半身裸の父上(パパうえ)が、意味不明な鬨の声を上げています。

 すると、


「「「「「筋肉!! 筋肉!! 筋肉!! 筋肉!!」」」」」


 騎兵1個大隊の皆さんが、槍を掲げて絶叫し始めます。

 彼らは皆、上半身裸。つまり筋肉。

 筋肉!!

 筋肉は伝播するのです!!


 見張り台の上で、双眼鏡で観戦するわたくしのところまで、彼ら筋肉の熱が伝わってきます。

 比喩表現ではございませんわ。

 騎兵の皆さんの体を、父上(パパうえ)の『筋肉魔法』が覆っているのです。

 その魔力の波が、数百メートル離れたこの見張り台にまで伝わってきているのですわ。


「総員、突撃――――っ!!」


 収音魔法が付与された双眼鏡が、父上(パパうえ)の声を拾います。


 細い川を挟んで睨み合っていた両軍が、衝突しました。

 トゥルク軍が誇る千人の戦列歩兵が、マスケットで一斉射撃を始めます。

 そこに飛び込んでいく父上(パパうえ)の騎兵大隊。

 一見、無策無謀な突撃に見えた騎兵大隊の動きですが、


「を!? をををを!? 筋肉――――!!」


 わたくしは思わず奇声を発してしまいます。

 上半身裸の騎兵の皆さんが、その胸筋でマスケットの弾を跳ね返してしまったからです!

 筋肉!!

 あれこそはアイゼンベルク辺境伯家を、


『帝国の盾』

『帝国最強』

『東方不敗』


 と言わせしめた強化魔法・筋肉!!

 父上(パパうえ)の騎兵大隊が、トゥルクの戦列歩兵をバッタバッタと薙ぎ倒していきます。

 ……ええ。比喩表現ではなく、実際に殺戮していきます。

 まぁ、外交の一形態とは言え戦争ですから、人は死にます。

 こればっかりは、辺境伯家の娘として慣れるしかありませんわね。


「…………おや?」


 やられているばかりかと思われていたトゥルク軍ですが、後方で動きがありました。

 天幕を張っている敵陣上空に、大きな魔法陣が立ち上がったのです。

 敵の魔法部隊か何かでしょうか?

 戦列歩兵は時間稼ぎということでしょうか。


「あ、あの魔法陣はまさか――」


 空が真っ赤に焼け上がりました。

 雲を割って振ってきたのは、あまりにも巨大な――


「隕石!! トゥルクに伝わる禁呪【メテオストライク】!?」


 燃え上がる隕石が、大地に着弾しました。


「「「「「筋肉――――!!」」」」」


 騎兵大隊は散り散りに。

 大地は波のようにめくり上がり、


「きゃぁああ~~~~~~~~っ!?」


 わたくしは見張り台ごと、空の上へと投げ出されました。


「ヘラ!?」


 上下左右にぐるんぐるんと回る視界の中、父上(パパうえ)と目が合ったような気がしました。

 そこから先の記憶はございません。

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