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第6話「『一生のお願い』対決」

 結論から申し上げますと、アフロディーテの尻尾をつかむことはできませんでしたわ。

 そうして――





   ◆   ◇   ◆   ◇





「貴領からの小麦大量買い付けの申し出、大変心苦しいが東ヒンディー会社が首を縦に振らず――」


「『一生のお願い』ですわぁ!」





   ◆   ◇   ◆   ◇





「悪女ヘラ! 教会は貴女に破門を言い渡し――」


「『一生のお願い』ですわ!」





   ◆   ◇   ◆   ◇





「我がフランシス共和国は貴家との相互不可侵条約を終了――」


「『一生のお願い』です!」





   ◆   ◇   ◆   ◇





「我がテュルク帝国は貴国に対して宣戦を――」


「『一生のお願い』!」





   ◆   ◇   ◆   ◇





 そうして、実に2年と半年が経ちました。

 目減りしていく『お願い』を上手く使いながら立ち回ってきたつもりなのですが、


「どうして」


 城の見張り塔から望遠鏡で眺める海には、びっしりと帆装軍艦――戦列艦が浮かんでいます。

 そして封鎖された海上からは、何千という西洋顔の武装兵。


「グランド連合王国の正規軍が攻めて来ますの~!?」


 テュルク帝国なら分かりますわ。

 我が国と北で国境を接している共和国(フランシス)も、まぁ分からいではありません。

 が、よりにもよって世界最強と言われる『日の沈まぬ国』グランド連合王国が正規軍を送り込んでくるなんて寝耳に滝。


「お嬢様!」


 そのとき、セレネと見知らぬ侍女――目元を隠した、やけに頭巾が盛り上がっている娘が見張り塔に上ってきました。


「セレネ、貴女は避難してなさいと――」


「ごめんなさい!」





 セレネがわたくしの腹に――ナイフを突き立てました!





 ガキンッ!


 ですがナイフは、ドレスの下にこっそりと着込んでおいた鎖帷子(かたびら)に阻まれます。


「セレネ!? 貴女、わたくしの『お願い』で絶対服従のはず」


 いえ、この問いは無駄ですわ。

 現に、この事態は発生しているのですから。


「セレネ、『一生のお願い』です。眠りなさい」


 目にいっぱいの涙を溜めていたセレネが、その場で倒れ伏します。

 わたくしはセレネの手からナイフを奪い取り、





 ――ガキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!!





 もう一人の侍女が振り下ろしたナイフを受け止めました!


「アフロディーテェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!」


 わたくしの――私の口から、怨嗟の叫びが沸き起こる。


「貴様、ついに直接殺しに来たな!?」


 ナイフを侍女に向けて振るう。

 ナイフが侍女の頭巾に当たり、頭巾がはらりと落ちる。

 中から出てきたのは、憎きアフロ頭だ。


「よくもセレネを! この魔女め!」


「魔女は貴女でしょう、ヘラ令嬢。『一生のお願い』です。この場で自殺――」


「!? 『一生のお願い』! その願いを取り消しなさい!」


「ちっ! 『一生に(・・・)一生の(・・・)お願い』です! 貴様は死ね!!」


 私の手が、ナイフで以て私の首をかき切ろうとする!


「『一生に一生で一生のお願い』! その願いを取り消せ!」


 私の体が自由に戻る。


「さらに『一生のお願い』! 死ね、アフロディーテ!!」


 ……


 …………


 ………………


 ……………………


 だが、アフロディーテは死ななかった。


「……あ」





『一生のお願い(残り回数:0回)』





「『一生のお願い』です。ヘラ・フォン・アイゼンベルク令嬢、死んで頂戴」





   ◆   ◇   ◆   ◇





 そうして私は、109回目の朝を迎えた。


 飛び起きて、メニューを開く。





『一生のお願い(残り回数:1回)』





「よかった、ちゃんとある」


 私はおもむろに、棚から拳銃を取り出す。

 その銃口を額に当て、


「あと何回死ねば貴女に届くのかしらね、アフロディーテ?」

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