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第3話「最初の『一生のお願い』の使い道」

 さて、デスループ悪役令嬢の、反撃開始ですわぁ~!


 やっぱり、独白(モノローグ)はお嬢様口調に限りますわね。

 断頭台の前後は思わず素に戻ってしまいましたけれど、『ですわ』口調の方が気持ちも盛り上がりましてよ。


 さて、問題のデピュタントなのですけれど。


「ヘラ・フォン・アイゼンベルク!!」


 (いと)しい(いと)しいバカ殿下――じゃなかったバッカス殿下が、右腕でアフロディーテ令嬢の腰を抱き、左手でわたくしを指差しながらわめいています。

 いい空気吸っておいでですわぁ~。


「今この瞬間、()はお前との婚約を破棄する!!」


 おーおー、のっけからエンジン全開ですわね!

 108回目ともなれば、もはや消化イベントの感すらありますわ。

 そして、


「何か申し開きはあるか!?」


「理由を……ぷぷっ、お聞かせ願え……ぶふぅっ!」


「何がおかしい!?」


「だ、だって」





 アフロ。

 アフロディーテ令嬢の髪型が、アフロなのですわ。





 あの髪型は、全実績を解除した猛者(プレイヤー)だけがセレクトすることができる特殊衣装『アフロ・デ・アフロディーテ』。

 アフロディーテは瀟洒(しょうしゃ)なプリンセスラインのドレスを着ているのに、髪型はアフロ。

 場違いこの上ないのに、誰もそれに違和感を感じないのです。


 何にせよ、これこそが107回やっても断頭台を回避できなかった最大最悪の理由その2。

 このアフロ、めちゃくちゃ『アフロディーテ物語』が上手いのですわ。

 わたくしが未来知識チートや現代地球知識チートでいくら断頭台を回避しようとしても、あの手この手でわたくしを追い詰めてきますの。

 伊達に全実績解除してませんわね。


「……ふぅ、失礼。婚約破棄の理由をお聞かせいただけますか、殿下?」


「貴様が次期皇帝の妻として相応しくない態度を取ったからだ!」


「ほぅ。それは具体的には?」


「とぼけるな! 私の可愛いアフロディーテに対して、数々の陰湿な嫌がらせをしただろう!」


「嫌がらせ、と言われましても。に、さん、お小言を申し上げただけですわ。まずは――そう、食事は手づかみで食べないように、と」


「あ、アフロディーテは田舎育ちでマナーにおおらかなのだ!」


「ほぅ、田舎」


 繰り返しになりますけれど、アフロディーテの生家は我が家の寄子(よりこ)

『西と東を繋ぐ交易路』として世界一、二位を争うほどの大都市・アイゼンベルクの郊外に領地を持つ騎士爵家。

 アイゼンベルク領は細い海峡を隔てた向こう岸が敵国・テュルク帝国なので『最辺境』などと呼ばれていますが、実際は大都会も大都会(地球で言うところのイスタンブールみたいな場所ですわ~)。


 そんなアイゼンベルク辺境伯の寄子の領地をして『田舎』と言い放ったバカ殿下。

 まぁ、王都育ちの殿下からすれば『郊外』の時点で『田舎』認定なのかもしれませんが、『アイゼンベルクなんて田舎だよね~』とも受け取られかねない危険なセリフ。


 当の殿下はそのことにまったく気付いていないのか、自信満々のドヤ顔。

 一方、わたくしの(パパ)(うえ)――アイゼンベルク辺境伯は、殿下の後方で青筋を立ててます。

 愛娘(わたし)に対する侮辱と、自領に対する侮辱。

 ツーアウトってところかな、ってヤツですわぁ~。


「次に、アフロディーテ令嬢が先日のパーティーでわたくしに話しかけてきたことですわ」


「学友に話しかけるなど、普通のことだろう」


「確かに、『身分を超えた学友』という立場であれば、対等ですわ。でも、学園を一歩でも出ればもう、わたくしと令嬢は帝国最大の辺境伯家令嬢と、当家の寄子たる男爵家令嬢という間柄。『目下の者は、許可なく目上の者に話しかけるべからず』。社交場での鉄則を、まさかお忘れではございませんね、皇太子殿下?」


 ()くいうわたくしも、殿下に『申し開きはあるか?』と言われてから口を開きました。

 婚約破棄を言い渡された以上、許可なく殿下に話しかけて良い身分ではなくなってしまいましたからね。


「っ! アフロディーテは身分などに縛られない、分け隔てない平等な社会を実現しようとしているのだ! 貴様のような旧弊の(やから)がいるから、この国は先進的な列強各国に押されているのだ!」


 おーおー、旧弊の権化たる皇室の第一皇太子が言いよりますわ~。

 しかも自国批判までしちゃって。

 もしかして、フランス革命がお望み?

 何だったら十月革命もあり得ますわよ?


 さんざん『中世ヨーロッパ』と連呼してきたわたくしですけれど、この世界はすでに、地球で言うところの『産業革命』を経た世界。

『真っすぐ飛ばない』と定評だったマスケット銃に変わり、『めっちゃ真っすぐ飛ぶ! 何なら狙撃もできる!』と大好評だったライフリング銃(ライフル)が世に出始めた時代なのですわ。


「言いたいことは、それだけか?」


 周囲では、


「見ろ、悪女として名高いヘラ令嬢が断罪されているぞ」

「ついに婚約破棄か!」

「アイゼンベルク家は勢いを失うだろう」

「ついに我ら外務閥の時代が!」


 と、日和見貴族たちがひそひそ話をしています。

 彼らはいずれも外務閥――軍務閥の筆頭たるアイゼンベルク家と反目している家の者たち。

 バカ貴族たちが、全部聴こえておりましてよ?





 ――さて、反撃といこうか。





 わたくしは、いけ好かない外務閥の筆頭であるバッカス殿下に向かって、


「殿下、一生のお願いですわ」


 言う。

 そして、わたくしにしか見えないメニュー画面を立ち上げ、


『一生のお願い(残り回数:105回)』


 へと指を添えた。


「この期におよんで何だ? まさか婚約破棄を撤回してくれ、とでも?」


 そう。

 この婚約破棄こそアフロディーテにとっての勝利条件であり、わたくしにとっての敗北原因。

 だからわたくしは殿下の耳元で、


「殿下、裸踊りをしてくださいまし」


 囁いた。

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