0話 プロローグ〜伝説のはじまり〜
男の伝説は、この日始まった――――
世界に突如として"ダンジョン"と呼ばれる洞窟が出現しておよそ100年。
魔石の採取やモンスターの討伐を生業とした"探索者"と呼ばれる職業が登場し、今ではダンジョン探索の様子を生配信するサービスを通して、かなりの知名度と人気を獲得していた。
そして今日も、とある女性探索者が"渋谷ダンジョン30階層"にて生配信を行っていた。
〈2×××年11月11日23時30分〉
「どもー! みんな、こんちゃー! "あいきゃん"だよー! 今日も元気にダンジョン攻略していくよーっ!」
景気の良い挨拶と共に生配信はスタート。同接数は100を超え、コメント欄も活気に溢れていた。
: こんちゃー!
: あいきゃん今日も可愛い!
: ふらっと寄った配信で可愛い子はっけーん
: 今日も黒髪ショートが素敵だなぁ( ´ω` )ムッハッー
: いつになったら俺と結婚してくれんの?
: このコメ欄見てたら今日も日本が平和だと実感する
: 今日は何をするのかなー?
「いっぱい来てくれてあいきゃん嬉しいー! 今日はねー、渋谷ダンジョンの30階層に来ていまーす!」
: 配信始めて半年で未だに30階層とかオワコン
: あいきゃんはゆっくり自分のペースでやってんだからいいんだよ
: 外野は引っ込め ていうかこれが普通だろ
: これだから上級配信者しか見てない奴は……
: あいきゃんは可愛いからいいんだよε-(`・ω・´)
: 可愛いしか褒めるとこなくて草www
: こいつほんとはクソなま
: えw 何?www
: 荒らしだろ、ほっとけ
普段から低級モンスターしか出現しない渋谷ダンジョンの30階層の攻略ということもあり、コメント欄は平和なものだった。
――――だが、一匹のゴブリンの咆哮により事態は急展開を迎える。
本来、80階層以上にしか出現しないはずのS級指定モンスター"ゴブリンキング"が現れたのだ。
女性探索者は震え、目を閉じ、彼女を助けに颯爽と現れたA級探索者ですらも死を覚悟した。刹那。
「おーい、クソガキー。生きてっかー?」
呑気で荒っぽい口調と上下灰色のスウェット姿という、如何にもダンジョンに相応しくない男の登場に現場のみならず、視聴者までもが一瞬凍り付いた。
そして少しのタイムラグの後、コメント欄は一気に加熱する。
: 誰だしテメェwww
: 突然のおっさん乱入は草www
: あまりの出来事にキングも足止めちゃったよw
: てか上下スウェットってマジでこの人何してんの
: 間違えて迷い込んだんじゃね?
: ダンジョンに? しかも30階層まで?
: ンなアホな……
突然の上下スウェット姿の男の乱入にコメント欄は大いに湧いた。だが、状況は何も変わってはいなかった。
未だ二人の探索者を睨み付けるゴブリンキングは仁王立ち。スウェット男の乱入は何も意味をなさない。ただ一人の死亡者が増えただけ。そう思っていた――――
『――――グォォォォォオ!!!!』
「チッ……。うっせーなぁ……!」
大きな唸り声を上げたゴブリンキングに対し、男は苛立ちを見せ始める。刹那――――男はゴブリンキングが振り下ろした棍棒を容易く掴み、粉砕。
その後、有り得ない速度で懐へ入り、右ストレートを繰り出したかと思えば、ゴブリンキングのみぞおちに大きな風穴が開いた。
: は?
: は?
: は?www
: 意味わからんて
: ゴブリンキングの腹に風穴開いたんやがwww
: どんなパンチやねんwww
: いや、冷静に考えて人間業じゃないだろ
: このおっさん何者……?
S級指定モンスターの腹に風穴が開くという前代未聞の状況に、二人の探索者含め視聴者までもが困惑していた。
しかしそんな事はお構い無しといった様子で、男はゴブリンキングの足を掴みバンバンと地面に何度も叩き付け、遂には額に光る魔石だけを残し、消滅させてしまった。――――にも関わらず無言を貫く男に対し、コメント欄は最高潮の盛り上がりを見せる。
: うぉぉぉぉ!!!! ガチでゴブリンキング倒しやがった!!
: すげぇぇぇぇぇぇ!!
: 有り得ねぇぇぇぇ!!
: 半端ないって! スウェットおじさん半端ないって!
: そんなん出来ひんやん普通! 出来るんやったら言うといてや!
: ネタはさておき……これは現実なのか? 相手はS級指定だぞ?
: ワイらは見たんや 歴史が変わる瞬間を……
: それだけやない 伝説の始まりや……
: お前ら誰だしwww
: いや、でもガチでやべーよ ゴブリンキングをほぼワンパンだからな……
: 長い事配信廃人やってるが、こんな奴見た事ない
: ずっと配信観てたからわかるけど、流石にフェイクでもなさそうだしな……
: このおっさん誰なんだよ……
: スウェットおじさんだお
: スウェットおじwww
: 視聴者を代表してワイが宣言する! 今日この日をもって、日本に伝説の男『スウェットおじさん』が誕生した!!
: スウェットおじさん爆誕www
: やべー、鳥肌たったー
: 俺まだ手震えてるもん
興奮さめやらぬといった様子のコメント欄だったが、そんな余裕もない程に気が動転していた女性探索者は、慌てて配信終了ボタンを押した。
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