違和感
晴れているにも関わらず薄暗い山林をひたすらに進む。道路も所々整備が行き届いておらず、砂利道のようになっている場所やガードレールがなぎ倒されている場所があったりした。本当にこの先に学校などあるのだろうか。ふと、そんな不安が頭をよぎる。
「障子さん、これ道あってます?」
「ナビ通りに進んでるから、そのはずなんだがな…」
「そう…ですか。なら、いいんですけどね…」
藤堂の様子はいつもの元気千万な姿とは似ても似つかなかった。それだけ、不安ということなのだろう。
「まるで異世界にでも迷い込んでしまったかのようですね。不気味です」
「そうだな…」
真壁の言う「異世界」という言葉が今の状況に一番似合っている気がした。
「ところで気になったんですけど…。多すぎません?」
「何のこと…だ?」
一瞬、何のことか分からなかったが、言われてみると、カーブに差し掛かる度に目につく物があった。
「あれですよ、あれ」
真壁が指を指す。その先にあるのは…。
お地蔵様。
確かに多過ぎる。ここまでに数十体はあったのではないか…。
「ほらあれなんて、首無し…ですよ」
「…」
得体のしれない寒気を感じる。それが良くないもの。だだそれだけは分かる。
数十分走ると開けた道へと抜けた。村か何かだろうか。
「障子さん! 学校ってあれじゃないですか?」
「お! あれだあれだ。やっと、着いたか」
見ると、数軒の建物の中に一際目立つものがあった。
「いやー雰囲気ありますね…。あれならお化けの一つやニつ出ても仕方ありませんわ…」
藤堂はそのそれを見て、目を真ん丸くしていた。
「あれ…本当に学校なんですかね…」
「ナビが言うにはそうらしい…」
真壁は怪訝そうにそれを見詰めていた。真壁の見るそれは学校にしてはあまり大きくはないが、形は確かに学校なのだ。だが、それを作り上げている壁やら屋根は普通の学校とは少し違った。全部、木なのだ。日本の建物は基本、木造建築のため、これだけ聞くと違和感は無いかもしれないが、それは本当に全てが木、木だけしかない。木目やら木特有の線などが丸見え状態なのである。明らかに、都会の学校とは様子が違った。
「ここであたふたしたところで何も始まらない。取り敢えず中に入るぞ。依頼者さんも待っているはずだ」
「障子さん、肝が据わってますねー。少しは恐怖というものを感じてはいかがです?」
藤堂は小馬鹿にしたようにそう言った。
「余計なお世話だ」
見渡しても田んぼばかり。学校の駐車場らしきものは見つからない。
「駐車場が無さそうだからあぜ道の脇にでも車を停めるとしよう」
「そうしましょう」
私は右側にあるあぜ道へとハンドルを切ろうとした。だが、私達はあるものに釘付けになってしまう。あぜ道に立つ、一本の電柱。そこには顔写真の付きで一枚の紙が貼り付けられていた。その写真に写る少女の笑顔は年相応の無邪気さを感じさせた。
大田ひかる 当時十三歳
二◯二二年八月二日に登校したのを最後に行方不
明となっております。
何か些細なことでもいいので、情報をお持ちの方
は下記の電話番号にお電話ください。
☓☓☓ー☓☓☓☓ー☓☓☓☓
行方不明者を探す張り紙だったようだ。
「行方不明者ですか…。まだ若いのに…。見つかるといいですね」
「そう…だな」
物騒な世の中になったものだ。私はつくづく、そう感じるのだった。
『あれ…』
八月に登校…? 何故、登校なんてしたのだろうか…。夏休み中のはずだろうに。不思議に感じたが、土地が違ければ生活も違う。そう考えれば違和感は無かった。おそらく、夏季登校日か何かだったのか。部活があったのか。もしくは、ここら辺は夏休みの開始が通常より遅めかの三択だろう。
私達は車を降りて、学校の校門の方へ向かう。どうやら、休日だからか校門には鍵がかかっているようだ。
「これじゃ入れないじゃん」
「困ったな…」
そのとき、そんな私達を見かねたのか一人の男性がこちらへ掛けてきた。
「あれ…誰ですかね?」
「佐々木さんかな? 顔を知らないから定かじゃないが」
「多分、そうじゃないですかね…」
すると、向こうから声をかけられた。
「皆さーん、お待ちしておりました。今、鍵を開けますね」
ガチャ。
「ありがとうございます。私、怪奇現象調査部の部長をしております怨霊と申します。それと、こちらの二人はメンバーの本郷と真壁です」
「聞いてますよ。こんなところまで遥々とお越しいただいてありがとうございます。私、この学校の体育教師をしております佐々木と申します」
佐々木さんは私達に深々とお辞儀をする。私達もそれに応えた。
「いやー本当にありがとうございます。困ってたんですよ」
「いやいやとんでもない。さあ、職員室に案内します。こちらへどうぞ」
感じのいい人で良かった。校舎がこんなだからてっきり…。
ふと、プールの方に目を向ける。
「あれ…」
「どうしました障子さん?」
「いや…何でもない」
「変な障子さんですね…」
「怨霊さんどうなさったんですか?」
続けて佐々木さんが聞いてきた。
「今日って登校している生徒さんっているんですか?」
「いや、いないと思いますよ。日曜日はどこの部活も活動してませんし…」
「そう…ですか」
おかしい。何か、根本的な何かが引っ掛かる。
「障子さん、様子が変ですけど、やっぱ何かあったんじゃないですか?」
藤堂が聞く。
「いや…人影を見た気がすんだよ」
「なんですかそれ…怖いですよ。でも、きっと気のせいですって」
「だといいが…」
私は煮え切らない気持ちで昇降口へと向かっていった。
第三話 完