聖女召喚は誘拐なのに、誰もそれを理解してくれない
アタシは前世で見ていた小説投稿サイトには、聖女召喚ものというテンプレ作品群があった。
異世界に召喚された、特別な力を持った女性を聖女として王国が囲い込むが、召喚は誘拐であり悪として王国が裁かれるというざまぁものである。
こういった作品の感想欄では、ヒロインの主張を支持する意見が圧倒的であり、アタシも召喚した側が悪いと思っていた。
「だからアタシは、アタシをこんな所さんに召喚した王国の奴らに復讐してやる事にしたのよ!王太子を誘惑し、卒業パーティで婚約破棄させるという手段でね!」
「待て待て待て、意味が分からないわ」
アタシが一から十まで説明したのに、公爵令嬢は分からんと言ってきた。
「アンタ、アタシと同じ日本から召喚された聖女なんでしょ!?なら分かるでしょ!」
「違うわよ。私も、そして貴女も異世界から召喚された聖女じゃないわ」
「どーゆー事よ!根拠を言いなさい!」
「だって、貴女は男爵家の令嬢で日本人じゃ無いし、聖女が持っ特別な力とかも何も無いでしょ?貴女が主張する、異世界召喚された聖女とは全然違うじゃない」
ふー、やれやれ。この公爵令嬢は頭が思ったより頭が固い様ね。仕方無い、もう一度最初から説明するとしよう。
「いい?聖女召喚は悪で、聖女として召喚された日本人は完全な被害者。どれだけチヤホヤされようが、復讐する権利がある。ここまでは分かるわよね?」
「それはまあ。そういうジャンルの話ならね」
「普通の聖女は王宮に呼ばれ、以前と同じ姿だが特別な力を持っ。でも、誘拐された可哀想な存在。なら、元の身体を失い、貧しい男爵家で気持ち悪い子供扱いされ、特別な力の無い状況で召喚されたアタシはもっと可哀想な誘拐被害者でしょ?」
「そうはならんやろ」
「ムキーッ!何で分かんないのよ!」
「分かってないのは貴女の方よ。貴女はピンク髪の男爵令嬢。召喚聖女とは全くの別物よ」
この女は何を言ってるの?確かにアタシの魂が押し込められている身体は男爵家の令嬢のものでその髪はピンク色をしている。でも、そんなのアタシが召喚聖女なのを否定する材料にはならないじゃない!
「髪の毛の色が聖女っぽく無いっていうの!?そんなの偏見よ!」
「あー、貴女聖女召喚もの知ってるけど、婚約破棄ざまぁは知らない?まあ、私の読んだ作品に出てきたピンクの殆どは、不自然なぐらいに婚約破棄ざまぁを知らなかったから、貴女もそのパターンなのかしらね」
「婚約破棄ざまぁ…?」
知らない単語を聞きフリーズしてるアタシに公爵令嬢は説明する。婚約破棄ざまぁとは、主に卒業パーティの場で王太子とかの高位の貴族が婚約者に冤罪を掛けて婚約破棄や国外追放し、それに対し婚約者が反撃して婚約破棄した側がざまぁな目に遭うという、聞いていて頭がおかしくなりそうなテンプレだった。そして、婚約破棄する馬鹿な貴族を突き動かす浮気相手役が、前世の記憶を持ったピンク髪の男爵令嬢との事。
「って、そんなテンプレある訳無いでしょ!アタシが勉強出来ないからって適当な嘘で誤魔化さないで!」
「本当よ。貴女はこれから加害者として処分されるのよ」
「嘘よ!アンタ、今の状況を元に適当な作り話をでっち上げたんでしょ!アタシは肉体とチート無しで不自由な環境に召喚された聖女なのよ!アタシは誘拐された被害者!この国の奴らは何されても良いサンドバッグ!読者感想欄の皆だってアタシの味方なんだから!」
「…どうやらこれ以上の会話は無駄の様ね」
公爵令嬢はアタシとの会話を切り上げ、衛兵に目配せする。衛兵は剣を抜きアタシに近づいて来る。この窮地にアタシのチートが遂に覚醒、なんて奇跡も起きず衛兵の剣はアタシの胸を貫き、王国を乱した狂った女としてアタシは処分された。
「何て酷い…逆張り作品…」
ああ
アタシって
本当に
かわいそう