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18. 最悪の茶会

 離宮に居住を移してから2ヶ月後、私は王宮の広間で貴婦人たちを招き茶会を開いた。

 

 この大国の王妃となって以来何度か開いた茶会は、高位貴族の女性たちの交流や情報交換の場として役立っている。私自身もご婦人方からためになる話をいくつも聞かせてもらっていた。ただ紅茶を飲みながらお喋りを楽しむだけではない、重要な時間だ。


 ただ離宮に移ってからは初めての茶会で、少し不安ではあった。誰にどこまで、どういった風に話が広まっているのか分からない。


(ご婦人方に私の居住が移った話が広まっているとしても、私自身の口から少しでもマシに聞こえる状況を説明して、変な噂話が広がらないようにしたいものだわ)


 まさか国王陛下が、隣国から迎えた正妃も、公務も、何もかも放り出して側妃と遊び回っているなんて知られるわけにはいかない。

 私は茶会の時間が来るまで頭の中で様々な会話のシミュレーションを繰り返していた。




 しかし、時間になり茶会を行う広間に入っていった私の足は、その場でピタリと止まってしまった。


「あら!やっといらっしゃったわね~ぇ。今日の主役様のお出ましだわ!うふふふふふ」


(……マ……、)


 マデリーン妃……。


 長テーブルの最奥、いつもなら私が座る椅子に堂々と座ってこちらを見ているのは、他ならぬジェラルド様の側妃、マデリーン妃だった。真っ赤なドレスに派手なお化粧で誰よりも目立っている。

 すでに集まっていた招待客のご婦人、ご令嬢方は皆困惑した表情で私の様子を伺っていた。軽い目まいがしたけれど、私はできる限り冷静を装い静かに口を開く。


「……マデリーン妃。ここで一体何を…?今日の茶会にはあなたをお招きしてはいなかったはずよ。今日は…、」

「そう!それよ正妃様!ひどいわぁ~あたしだって女同士のお喋りは大好きなのに!あたしがジェリーに気に入られてずっと一緒にいるからって、わざと仲間外れにすることないじゃないの。陰険なのねぇ~困っちゃうわ」

「……っ、」


 大きな声で何てことを…。私はまだマデリーン妃とあの初対面の日以来顔も合わせてはいない。しかも今日は、そのマデリーン妃をジェラルド様が迎えた経緯についてや、私が王宮からあの離宮に居住を移したことについて、可能な限り体裁のいい、王家の醜聞にならないような説明をしたかったのだ。

 だからあえてこの人のいないところで話したかったのに……!


 マデリーン妃は挑戦的な笑みを浮かべたまま言葉を続ける。


「いいじゃありませんかぁ。あたしがジェリーと結婚して以来まだあなたとちゃんとお話もしていないんだもの。どうしてそんなにあたしに冷たくなさるの?そんなにジェリーをとられたことが許せない?今日はね、あなたと仲良くなりたくてあたしも参加させてもらったのよ。うふふ。侍女が教えてくれたの。あなたが今日茶会を開こうとしてるって。…ね、早く空いてる席に座ってくださる?」


 気が遠くなりそうだ。皆の視線が痛すぎる。気遣うようなご令嬢に、興味津々といった風に目を輝かせているご婦人。今のマデリーン妃の言葉を聞けば、まるで私が側妃を迎えたことに嫉妬してこの人を無視しているかのようだ。


 そこは私の席なのよ。あなたこそ空いている他の席に移動しなさい。と、この空気の中で言う勇気が出ず、私はマデリーン妃の差し向かいの席に渋々座った。


「…皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。今日はちょうどお話しようと思っていたところだったのです。こちらの…、…陛下がお迎えになった側妃のマデリーン妃のことを」

「うふふふっ。挨拶ならさっきもう済ませたわよ!改めまして、ジェリーの側妃になったマデリーンよ。よろしくね皆さん。今後はこうしてお茶会で頻繁にお会いすると思うわ。ジェリーもね、あたしが楽しめるような会には積極的に参加すればいいって言ってくれたの。王宮でのお部屋も、ジェリーの隣がいいって言ったらすぐに用意してくれたし!ふふっ。……あ、ごめんなさいねぇ、正妃様。あたしが来たせいで、あなたあの一番いいお部屋から追い出されちゃったのよね。中庭の奥の離宮、住み心地はいかが?何か不便があったら遠慮なく言ってちょうだい。あたしからジェリーにちゃあんと言ってあげるから」

「……。」


 広間の空気が一瞬にして凍りついた。誰かの固唾をのむ音まで聞こえてきそうだ。皆がおそるおそるといった感じでこちらを見ている。


 今の発言で全てがバレた。ジェラルド様がこの側妃に入れ込んでいることも。私を王妃の部屋から追い出し、この人をそこに住まわせたことも。追いやられた私が、小さな離宮に居住を移したことも。


(…というか…、私も今初めて知ったわ。私のあの部屋、この人が住んでいるのね…)


 最初からそれが目的だったのだろう。

 側妃とのトラブルがどうとか、私の警備がこうとか言っていたのは、所詮詭弁。本当の目的はこの側妃をジェラルド様の隣の部屋に住ませることだったんだ。


(宰相が何も知らないわけがない。それなのに、あんな体の良い言葉を並べて私を離宮に移らせるなんて…)


 アドラム公爵…。最初から私に優しく接してくれて、唯一ジェラルド様の件を相談できる相手だと思っていたのに…。


 あの人は一体、何を考えているの?





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