訪問者
その日の午前中、突然なんの知らせもなく訪ねてきたスチュワートに屋敷内は騒然とした。
突然の訪問も非常識だが何より、元旦那が元妻の家を訪ねてくるなど正気の沙汰じゃない。
屋敷内は混乱をきたし、すべての判断を元凶に委ねた。
「どうするリリアーナ。あちらはお前と話がしたいだけだと言っているが…。」
リリアーナの離縁の理由をそれとなく察しているだろう父親は、リリアーナを心配するようにそう尋ねた。
「…はぁ、どうもこうもないでしょう。あちらは私たちより爵位が上なのよ。追い返せないもの。大丈夫よ、私が話してくる。リーシャ、オズワルト公爵をお庭にご案内して。お庭でお茶でもしながら話すわ。」
リリアーナは侍女にそう指示を出す。
オズワルト公爵とは元旦那のことだ。爵位はリリアーナより上なため、本来であれば屋敷にも上がらせず待たせることも失礼に当たるが、元旦那が訪ねてくるという非常事態下においてはご容赦していただきたいところだ。
そしてさらにリリアーナは”庭でお茶をする”ことで、スチュワートに言外に”お前なんかを家に上げてやるわけねーだろ”と言っているのである。
これも本当に非常識だが、これも元旦那が…以下略。
それに、二人が室内で会話なんかしたらリリアーナの離縁した理由を詳しく知らない者にとっては、この逢瀬の内容が気になるところだろう。
噂はどこからどう広がるか分かったものではない。
リリアーナはそんな人たちに話のタネを提供してあげるほど暇ではないのだ。
こうして約一月ぶりに元夫婦は再開した。