離縁
それからリリアーナは高熱を出して寝込んでしまった。
数日後リリアーナが目覚めて初めて目にした人物は義母だった。
どうやら義母は倒れたリリアーナの看病を買って出てくれていたらしい。
夜通しリリアーナを看病し見てくれていたのだという。
それから義母はリリアーナに深々と頭を下げ、リリアーナが聞いてしまったであろう会話のことを話してくれたのだ。
「スチュワートは昔から仕事ばかりしていて、周りがどんなに急かしても結婚しようとしなかったの。本人はそれでもいいかもしれないけど、私たちは貴族よ。貴族は後継ぎを残していくことも重要なの。だから、年頃の良いお嬢さんを見つけて結婚させようとしたのよ。」
「それで選ばれたのが、私だったということですね。」
不思議とリリアーナに怒りはなかった。貴族が政略結婚なんて当然の話だ。リリアーナは自分が運よく恋愛結婚をしたと思っていたが、それが元あるべき政略結婚に戻っただけなのだから。
「…結婚する前に送られてきた手紙や贈り物はどなたが?」
「…手紙は代筆してもらっていたわ。…贈り物も。」
「結婚のこと、旦那様にはいつ?」
「…スチュワートには挙式の前日に話したわ。この結婚を逃すわけにはいかないと、私たちも焦っていたの。」
「そう、だったんですか。それでは旦那様もお怒りになったのでは。」
「えぇ…。今まで見たことがない程怒っていたわ。それで、私たち夫婦にこの結婚について条件を付けてきたの。」
「条件、ですか?」
「そう。今はおとなしく結婚するが、いずれ子ができたとき、子供の教育には一切自分はかかわらない。子供の認知はするが、妻とは即刻離縁する、と。」
「そんな…。」
「私たちもそれはあまりにも横暴だと息子を窘めたけど、聞く耳をもってはくれなかった。それでも、息子はおとなしく結婚したし、リリアーナ、あなたはとてもいい子だから次第に心を開いていくだろうと思っていたのよ。けど、」
「そうはならなかった…。」
「リリアーナ、本当にごめんなさい。謝って済まされる話じゃないことは分かってるの、でも!」
義母がすがるようにリリアーナの手を握る。
けれどリリアーナはそっと義母の手を外した。
「…ごめんなさい、お義母さま。こんなことを聞いて旦那様と結婚生活を続けることはできません。今思えば子ができなかったのは、よかったのかもしれません。」
「リリアーナ…。待って、待ってちょうだい。」
「お義母さま、今度はちゃんと旦那様が本当に好いた方と結婚できるように協力して差し上げてください。…私には少し、荷が勝ちすぎたようです。」
こうして、リリアーナは夫と離縁した。