会話
その日の夜だ。
実母が来ているのに家主が不在というのはさすがにいけないと思ったのか、珍しく夫は夕食の時間に間に合うように帰ってきた。
久しぶりに夫とともに夕食ができるとウキウキしながらリリアーナは先に食堂で待っていたのだが、夫と義母が時間になってもなかなか現れない。
気になったリリアーナは夫の部屋へ行くことにした。
すると、夫の部屋の扉が少しだけ開いており、会話が聞こえたのだ。
聞き耳を立てるなんて、とは思ったが、もし仕事中だったら申し訳ないと思ったリリアーナは扉からこっそり部屋の中をのぞいた。
すると、そこには義母もいた。先ほど聞こえた会話は二人の話し声だったのだ。
なんだ、二人一緒にいたのかとほっとしたリリアーナは扉を開けようと手を伸ばしたその時。
「もういいだろ!いつまでもうるさいんだよ、母さんは!」
「親に向かってなんですか、その言い方は!」
初めて夫が口を荒げて話しているのを聞いたリリアーナは驚き、扉の前で固まってしまった。
「母さんの言うとおりに結婚もしたし、子作りもしてる!十分だろ!」
「十分ではありません!私が何のためにリリアーナと結婚させたと思っているのですか!」
二人はいったい何の話をしているのか。これではまるで、夫が嫌々リリアーナと結婚したかのような…。
「知るわけないだろ!だいたい俺はあんな子供みたいな女なんか嫌いなんだよ!」
「スチュワート!」
「俺の知らない間に勝手に結婚までさせて、もううんざりなんだよ!」
誰かの呼吸が耳元でいやに大きく聞こえる。
これは誰の…?
あぁ…、自分だ。
二人の会話を聞いたリリアーナは過呼吸を起こしかけていた。
リリアーナはドアの前にしゃがみ込み、そのまま倒れてしまった。
その衝撃で扉が、ギィ…と開き、そのわずかな音を聞いた二人は、はっと扉のほうへ目をむけ、そこに倒れているリリアーナの姿を発見したのだった。