距離
リリアーナは、夫と距離を置くことにした。
もともと夫は仕事一筋で、家に帰ってくるのも遅かったから、リリアーナが会おうとしなければ、あっというまに夫婦の時間は減った。
それでも夫は、特に何も言ってくることはなかった。
「奥様、今日は夕食はどちらで食べられますか?」
「今日も部屋でいいわ。…わざわざ持ってこさせてごめんなさい。」
気づかわし気にリリアーナを見つめてくるのは侍女のソフィだ。
「いいえ。旦那様は今日も早めにお帰りになるそうです。」
「…そう。」
あの出来事があってから、仕事一筋の夫が早く帰ってくるようになった。
(なにをいまさら…。)
いままでのリリアーナであれば、久しぶりに夫に会えると夕食の何時間も前からメイクして、お気に入りのドレスを着てそわそわと待っていただろう。
けれど、今のリリアーナにはそれをするだけの気力はなかった。
「奥様、いったい何があったのです?このソフィにもお話できないことですか?」
「…ごめんなさい。」
ソフィには話せない。ソフィは夫が雇った侍女なのだ。…ソフィのことも信じられない。
それに、こんなみじめな事を他人に話すなどリリアーナのプライドが許さなかった。