刺々しい女?
またお茶会を再開させた二人は疲れを感じつつも、いい香りの紅茶を嗜んでいた。
「はぁ~びっくりしたわね~まさかリリアーナに突っかかってくる人がいるなんて」
「はい。お騒がせいたしまして、大変失礼いたしました。」
「いいのよ。貴族間の礼儀は大切だもの。大丈夫よ、今回のことでリリアーナに非がないことは、わたくしがしっかり広めておくから。」
任せてとでもいうようにエリザベートはリリアーナに向けて力こぶを作って見せる。
「ふふふ。はい、ではよろしくお願いいたします。」
紅茶を一口飲んだ後、そっと音をたてないようにカップを置き、リリアーナは尋ねた。
「でも、棘姫ってなんでしょう?エリザベート様知っています?」
「あ~あれは、あなたのことよ。」
「わたくしですか?」
「そう。あなた結婚してからはだいぶ柔らかな雰囲気になったけど、結婚する前なんかはほら、その美貌とあいまって絶対に失敗を許さないオーラがあったから、棘姫って呼ばれてたのよ。所作も完璧できれいだから、あなたの前では絶対マナーを間違えられないってみんな思ってたと思うし。知らなかった?」
「知りませんでした…。」
そもそもリリアーナは自分が美しいと思ったこともないのだ。
それに別に礼儀に事をうるさくしていたつもりもなかった。
「まぁ別に礼儀とかマナーをちゃんとしていればなんてことないんだけど、あなた頭もいいからなんでも見透かされてそうで余計に緊張しちゃうのよね」
「エリザベート様、それ悪口ですか…?」
「まさか!褒めてるのよ!それに言ったでしょ。結婚してからは雰囲気が柔らかくなったって。」
「…ではまた元の刺々しい女に戻るかもしれませんね」
「え?なんでよ?喧嘩でもした?」
「いえ、離縁しました」
「へぇ~……。えっ!!!!?なんですって!!?」
「離縁しました」
「それは聞こえてるわよ!聞こえなくて聞き返したわけじゃないわよ!」
エリザベートはテーブルに身を乗り出す勢いで尋ねてくる。
「…理由はちょっと言いにくいですが、その、嫌い、なんだそうです。」
「なにが?」
「オズワルト公爵様が、わたくしのこと。」
「…いやいやいやいや。ないないないない。」
エリザベートはぶんぶんと何度も首を横に振った。
「あの、オズワルト公爵でしょ?」
「たぶん?」
「それちゃんと本人だった?」
「…オズワルト公爵様が双子だったとか影武者がいるとは聞いたことないですね。」
「ちゃんと本人と話し合ったほうがいいわよ」
エリザベートは何かの勘違いでリリアーナとスチュワートがすれ違っているとでも思っていそうだ。
「いえ、本人がそう言ってましたので。」
「あなたに直接?」
「直接ではないですが、話の前後を聞く限りそうとしか考えられません」
「…も~なにやってるのよあなたたち。」
リリアーナはまた一口紅茶を飲むことでこの話題を切り上げた。
ちなみに、お茶会での騒動後、社交界でピーロム家という名前を聞くことはなく静かに没落していった。
言っておくが、リリアーナはピローム家没落に対して一切かかわっていない。
しかし、今回リリアーナ・ハリントフォードに楯突いたピローム家をわざわざ擁護しようとする貴族などおらず、貴族たちが一切の関りを断ったことで徐々に没落した。ただそれだけのことである。