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その女性は大きな赤い羽根のついた扇を口元にあて、二人を見下ろすかのような不遜な態度だった。


「リリアーナ様ってどちら?」


リリアーナも同様に扇を開き口元にあてる。


「わたくしですが。」


「ふ~ん。」


女性はリリアーナを下から上に視線を動かすと、馬鹿にしたように鼻で笑った。


「あなたが?」


「なにか御用でしょうか」


「別に?ただあなたを忠告に来ただけよ。」


「忠告?」


「そう。あなた、スチュワート様に離縁しないで~って泣きついてるそうじゃない?」


リリアーナは扇の下でそっと眉を顰める。


「スチュワート様にこれ以上まとわりつかないでくれる?あの方は高貴なお方なのよ?あの方を困らせて何がしたいの?もしかしてお金欲しさじゃないでしょうね?なんて、賤しい。とにかくこれ以上彼に纏わりつくようならわたくしが黙っていないってことを忠告しておいてあげるわ!」


あまりの言葉にさすがにエリザベートも注意しようとしていたが、リリアーナはそっと視線で止める。


お茶会の間離れたところにいた衛兵もさすがにこの事態を察し、集まってきた。


しかし、リリアーナはその衛兵にもまだ待機するよう指示を送った。


そしてリリアーナ優雅に椅子から立ち上がり、その女性のほうへ向き直った。


リリアーナが立ちあがると女性はリリアーナよりは若干背が低かったことがわかった。


「…なによ?なんか文句でもあるの!?」


リリアーナは一歩女性へ近づいた。


「あなた、誰です?」


「はぁ!?この私を知らないの!?ほんとにあなたって無知なのね!」


ぴくりとリリアーナの右眉が跳ね上げる。


エリザベートがこそっと「たぶん、最近男爵になったピローム家のご令嬢のマリン様だと思う」と教えてくれた。


「まぁ、最近貴族になられたのね?」


「ふん。そうだけど?でもあなたに名前は教えないわよ?あなたの賤しさが移ったら困るもの、ねぇ?」


ふむ、とリリアーナはひとつ頷いた。いい感じにギャラリーも集まってきたことだし良い頃合いではないだろうか。


リリアーナはパチンと持っていた扇を()()()


そしてまた一歩マリンに近づき、二人の距離は双方のドレスの裾が触れ合う距離にまで縮まる。


「ちょっと近いんだけど、離れなs」


ぱー-ん!と音が響き渡った。


突然頬に痛みが走ったマリンが呆然と床にへたり込むのを見下ろしながら、リリアーナはそっと扇を開く。


「あら、ごめんなさい?近くにうるさい虫が飛んでいたから思わず。」


「な、なにが思わずよ!あんたわざわざ扇閉じて力いっぱい私をぶったくせに!」


「そうよ?だから言ったでしょ?()()()()()()()()と。」


「私が虫だって言いたいの!?」


「ねぇ、あなた?あなたは貴族になりたてだから知らないかもしれないけど、貴族の間では序列というものがあるの」


「そのくらい知ってるわよ!」


「そう?では貴族同士の挨拶では()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということはご存じ?」


「だからなに!?」


「わたくしはあなたに許可を出した覚えはないのだけど」


「はぁ?自分が私より上って言いたいの?!」


「そうよ。この国では、ここにいるエリザベート様とわたくし以上の爵位をお持ちの貴族令嬢はこの国におりませんもの。」


マリンはここで何かに気が付いたようにはっと顔を上げ、リリアーナを見て顔を青褪めさせた。


「まさか、あなた…ハリントフォード公爵の棘姫…」


「さぁ、その棘姫というのはよく知りませんが、わたくしの名はリリアーナ・ハリントフォード」


マリンは唐突に父の言葉を思い出した。


《この国には逆らってはいけない者が数人いる。その数人の顔と名前は決して、決して、決して忘れず、不快な思いをさせるようなことがあってはならない。


もし、そうなれば爵位返上どころではなく、国を出て一生逃亡生活をしなくてはいけないような事態になりうる。》


そのときマリンは父の言葉を聞き流していたが、爵位の高そうな家名は覚えておいて損はないと記憶していた名前がいくつかあったのだ。


たしか、その中にあったはずだ”ハリントフォード”という家名が!


まさかこのリリアーナがそうなのか?


「まさか、あなたに賤しいなどと言われるとは思いませんでした。」


こちらを見下ろすリリアーナの瞳は、その美貌もあいまって人を震え上がらせるほどの温度をしていた。


「あ、あ、すすみませんリリアーナ様!私!」


「私は発言を許しましたか」


「…!!」


「わたくしに()()()と言ってきた人はあなたが初めてです。」


「あ…!っ…」


リリアーナに弁解しようにもマリンはまだ発言の許可を得ていない。


これ以上しくじればどうなるのか。


マリンはもう身なりにかまわず土の上に両膝をつき、ひたすら頭を下げた。


「いいですか、よく覚えておきなさい。()()()()()()()()()()()()です」


ここでようやくリリアーナは周りの衛兵に合図を出した。


「この名前も名乗らないご令嬢を門の外までお送りして差し上げてください」


「「はっ!」」

今回はちょっと長めの投稿でした。


きり良く書くのは難しいですね。

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