聞いてないけど?
それからはあっという間に王太子と一緒の馬車に乗せられ、王宮についてしまった。
「リリアーナ嬢、こっちだよ。」
「あの、私になにをさせる気ですか?」
「まぁまぁ、ついてきて。ほら、ここだよ。」
王太子に言われるまま歩き、ついたのは何の変哲もない部屋の前だ。
「ちょっと待っててね。僕が呼んだら入ってきて。」
そういって王太子はノックもなしに扉を開け、入っていってしまった。
なんだろう、嫌な予感しかしない。
帰りたい衝動を堪えていると王太子の声が聞こえた。
「は~い、入ってきて~。」
なんとも気の抜ける呼び声にリリアーナは苦笑しつつ部屋の扉を開ける。
「失礼いたします。」
「…リ、リリアーナ!?」
ガタガタと椅子を倒す勢いで立ち上がった部屋の主、それはスチュワートだった。
数秒程リリアーナを呆然と見つめると、突然はっとしたように王太子のほうへ顔を向けた。
「王太子!これはいったいどういうことですか!」
「どうもこうもないだろう。君が最近元気がないようだったから、リリアーナ嬢に会えば元気になるかと思って連れてきてあげたんじゃないか。」
「余計なお世話です!」
スチュワートが王太子に食って掛かっているのを横目に、リリアーナは初めて入ったスチュワートの仕事部屋を見回していた。
「…あ~リリアーナ嬢?突然連れてきてしまってごめんね?と言っても、君はあまり驚いていないようだけど。」
「はい。王太子がうちに来られた時点で何となく、オズワルト公爵様絡みだろうとは思っておりましたので。」
「へへ。君は聡明だね。」
「はぁ、光栄です…」
「っちょっと待ってください!」
ほのぼの?と会話をつづける二人の間に割って入ったのは、この部屋の主だ。
「殿下、もしかしてリリアーナの部屋に入ったのですか!?」
それを聞いてリリアーナは目が点になってしまう。
元旦那に”リリアーナ”と呼ばれる筋合いはないし、そもそもなんでそんなに怒っているのか。
「入ったよ?(正確にはリリアーナ嬢の部屋じゃなくて応接室だけど…)」
「な!…リリアーナ!君も君だ!独身男性を部屋に招き入れるなど、言語道断だ!」
ぷっちーん、と何か切れる音がした。
「はぁ?」
「っあ、いや」
「オズワルト公爵様?先ほどからいったい何をおっしゃっているのでしょう?王太子殿下を、うちのどの部屋でもてなそうが、あなた様には関係ないのでは?」
「リリアーナ、すまない。それは、」
「それに、オズワルト公爵様に”リリアーナ”といつまでも親し気に呼ばれる筋合いもありませんわね?もう夫婦ではありませんので、そのあたりの礼儀はきちんとしてください。」
「え、ちょっと待った」
険悪な元夫婦の会話を遮ったのは王太子殿下である。
「夫婦ではないって、どういうこと?」
「?その言葉のとおりですわ。オズワルト公爵様とは離縁いたしましたので、もうわたくしに夫はおりません。」
「聞いてないけど」
「は?」