死にたがりの聖女は精霊に拾われ、恋をする
久しぶりの投稿です!読んで面白かったと言って頂けると幸いです。
燃え盛る炎。
ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
家族が、友達が、近所のおばあさんが、2軒隣の家の飼い犬のレンが、八百屋のおじさんが、皆が、皆が、炎に消えていく。
燃え盛りながら倒れてくる家の柱だったものが、彼らを押し潰す。
必死に、逃げる道を探すけれど、どこを見ても炎しかない。
助けを求めて伸ばされた手に、手を差し出すけれど、あと少しのところで、あと、数センチのところで、力尽きて火の海へと沈んでいく。
みんなの顔が、苦痛に染まっているのが見える。痛いと、苦しいと叫んでいるのが聞こえる。焼け爛れた腕を中に彷徨わせて。助けを求めているのが見える。
なぜ。
なぜなの?なぜ、私は動けないの?
叫び出したいのに。火の海へと飛び込んで、いかないでと抱きしめたいのに。泣き叫んで、狂ってしまいたいのに。
皆を、助けたいのに。
動けない。何も声に出せない。ただ見ていることしかできない。狂うこともできない。
脳は冴え渡っていて、思考だけがから回る。
すべてがスローモーションで映る。
なんで、なんで、私だけがこうして生きているの。なんで、私が助けられたの。
意味なんてないのに。何もできないのに。
知識なんて、役に立たなかった。行動できないのだから。
知っていても、活用できていないのだから。動けないのだから。
火を消すための工夫も、コツも、知ってるのに。
皆を助けられる方法は何個も浮かんでるのに。
分かっているのに、何も、できない…。動けないのはなぜなの……?
私が、生きている意味はあるの……?
『…ユリティア、生きて……!!』
消えて、しまいたい……
*
パチリと目を覚ます。
頬を温かいものがつたっているのがわかる。
「…夢……」
懐かしい夢だ。思い出したくないものでもある。
大切なものが全て消え去った記憶。
何も守れなかった幼い私の。
今も前進できない私の記憶。
そっと目元を拭うと、真っ白な部屋に目を向ける。
壁際のタンスも、鏡台も、寝台のレースも何一つ例外なく白い。
そして極端にものが少ない。
室内の白は、燃え尽きた灰のような白で、まるで私の心を映しているように見えて、妙に虚しい気持ちに胸を埋め尽くされる。
コンコンとドアをノックされる。
小さく答えを返せば、数人のメイドが入ってくる。
彼女らは、素早く私の服を着替えさせ、髪を結う。
私の身支度をしてくれる彼女らは、何も言わない。義務でしかないことをするのに、会話などいらないのだろう。
私も、それでいいと思ってる。
私は、身寄りを無くし、各地を転々としていたところ、聖女だとして王宮に連れてこられた。
お告げのあった通りの白い髪に、苺のように真っ赤な瞳。名を尋ねられ、ユリティア・シルフィードと名乗った私は、すぐさま神殿に連れて行かれた。
神殿で、聖女だと認定されて、王宮に住むように言われて。王子さまの婚約者になった。
人前に出るたびに、沢山の人が、聖女さま聖女さまと讃えてくる。
それは好きにしたらいいと思う。なにかに助けを求めて、神聖化するのは人間に多々あるものだから。
でも、きっと私は聖女ではない。
だって、聖女なら。
あのとき、燃え盛る街で一人でも多くの人を救えたはず。
聖なる、癒しの力を持っているならば、"救えない"なんて、なかったはず。
あの都市災害から、私の時間はとまったまま。ずっと十三歳の子供のまんま。
新しいものを拒否して。言われるとおりに過ごしている。
ずっと、ずっと。
こんなにも何もできない私は、死んでしまったほうがいいのに。
聖女さま、と呼ばれるたびに。心のなかで、違う。私は聖女じゃない、と否定し続ける。
でも、言葉にする覚悟も、勇気もなくて。
追い出されたら、行く宛もなくて。
きっとずっとこのまんま。ただ緩やかに、壊れていくんだろう。あのとき死ななかったのだから、生きていくしかない。
だから今日も。白い修道服で身を包み、神殿の礼拝堂で悩み相談をして、訪れた人の怪我を癒やして。笑顔で受け答えして。
こうして言われたとおりに生きていくんだ。
私は何も考えない、物言わぬ人形でいい。
子供の手の中で遊び道具として使われて、いつか捨てられる。そんな存在でいいの。
幸福なんて、私が求めていいものじゃないのだから。
ぼんやりと、考える。
過去のことを考えてもどうしようもないけれど。あのとき、一人でもこの手で救えていたのなら。誰かに助けの手を差し伸べられたなら。少し、ほんの少しの、幸福を求められたのだろうか。
もし、もしも誰かが、『あなたのせいじゃない』と。『あなたは何も悪くない』と、言ってくれたら。
私は救われるのだろうか。
以前、聞かれたことがある。
『そんな生き方をしていて、後悔はしないのか』と。
でも、と思う。生き方に後悔するのならば、今ここで死ぬのが一番後悔しない方法だと思う。
後悔しない人生なんて、存在しないのだから。
後悔して、後悔して、それでもまだ、後悔し足りなくて。後悔の渦に呑み込まれて。そうしてできたのが、私。
たくさんの小さな後悔を糧にして人は成長すると言うなら。
私は果たして、成長していると言えるのだろうか。
大きな後悔だけをずっと抱えて立ち止まっている私は、正しく成長した人間と言えるのだろうか。
わからない。
いったい、あの人は私に何を言いたかったんだろう。あの人は続けて何かを言おうとしていた。でも言わなかった。大したことではないのだろうけど、きっと私はいつまでもわからないまま。
ずっとこのまま無意味に生きて、消えていく。
*
遠くへ行きたい。
そう思うけど、行動する程に強い思いなんてほどでもない。
だからぼんやり、遠くの山を眺める。ほんの少しの、あこがれを込めて。
「……さ…………せ……さま……聖女さま!」
「──はい…」
「どうかなさいましたか?ぼんやりとしていらっしゃいましたけれど」
「……いいえ。なにもないです」
「そうですか。明日から各地の聖地巡りをするのですから、ぼんやりしている暇などありませんよ」
あまりにもぼうっとしすぎてしまったらしい。
普段は話しかけてすら来ない、修道服を着た少女に、肩を揺すられる。
彼女の話を聞き、そういえばそうだったと思い出す。
──聖地巡り……か。
故郷へは、行けるのだろうか。
それとも、あの場所から目を背け、逃げた私は、あの地を故郷とは呼べないだろうか。
視界に自分の白い髪が映る。
そういえば、この髪は聖女が聖女たる証だったか。
でも、故郷では、白髪または銀髪で赤い瞳なのが一般的だった。
神様とやらが本当にいるのなら、なぜこんなにもわかりにくい『見た目』で判断するようにしたのだろう。
もっと、わかりやすくしてくれたら良かったのに。
まやかしだらけの私は、聖女なんかじゃないのに。
そう思いながら、寝台に入り、眠る。ちゃんと眠れなくなったのは、いつだったか。
もうわからない。
でも、今日はなぜか、吸い込まれるように深い眠りに落ちた。
薄くなった意識で、思い出す。そういえば今日は、私の誕生日だった。
*
さらさらと風が流れる。
青々とした草が揺れる。
『ティア』
遠くを眺めていた私を呼ぶ声に振り返る。そこには、男の子がいた。
銀色の髪を肩のあたりで切り揃えた、優しそうな男の子。
『■■■!!』
そう叫ぶと、男の子のもとへ私は走る。
その勢いのまま抱きつくと、彼は驚いたような顔をして、それでも、仕方ないな、と受け止めてくれる。
彼の腕の中は心地良くて。いつまでもここにいたいと思う。
グリグリと彼の肩に額を押し付けながらぎゅうっと強く抱きつく。
そんな私を彼はそっと抱きしめていてくれる。
それがあまりにも嬉しくて、泣きそうになる。
『あのね、私、先生のところから逃げてきちゃったの。先生がね、怖いの。おめめ三角にして、ものさし振り回すの。悪い子だって、叩いてくるの。…ねえ、ティア、悪い子なの……?』
そう尋ねると彼は首を横に振って、いいや、と否定する。
『ティアはなにか悪いことをしたの?』
『ううん、してないよ。しゅくだいもちゃんとやったもん』
『ティアは偉いね。きっと、先生はティアがすごすぎて、びっくりしちゃったんだよ。あまりにもすごくて嫉妬しちゃったんだ。だからティアは悪くないよ。ティアは、いいこだもんね』
『嫉妬……?うんっ!ティアすごいの!いい子なの』
『うんうん』
そう言って、嬉しそうに跳ねる私を彼は幸せそうに見つめる。
それがとても幸せで、そのまま彼にぎゅうっと抱きつく。
『ティアね、■■■が大好き!!あのね、あのね…ティアが大きくなったら、ティアを■■■のお嫁さんにしてほしいの……ダメ?』
コテンと首を傾げながら、見上げる。図らずして上目遣いになったティアに、彼はいいよ、と告げる。
『じゃあティアは僕のお嫁さんだね。きっとティアは大きくなってもかわいいから僕は周りの人に嫉妬されちゃうね。ズルいぞ、羨ましい!ってね。でもきっと、ティアがお嫁さんになったら、嫉妬も気にならないくらい、幸せだろうね』
そういった彼は私の頭を優しく撫でて、微笑む。
『僕も、大好きだよ、ティア』
囁くように告げられたその言葉に、私はこれ以上ないくらいに嬉しくなって、満面の笑みを浮かべて、彼に抱きつくのだ。
そんな彼の、温もりが、声が、何もかもが大好きで。一緒にいるだけで幸せいっぱいだった。
*
すっと目を開けたとき、まだ外は暗く、夜明けはまだ遠かった。
夢の中の彼を思い出そうとするけれど、あの男の子と、どこであったのか、どんな人かすら思い出せない。
それに、里にあの男の子がいたかどうかすらわからない。
『僕も、大好きだよ、ティア』
その言葉が頭に残って、響き続ける。
懐かしさを感じてぼうっとしていると、脳が覚醒してくる。
もう一度は、眠れそうにないから、今日から始まる、聖地巡りのために、カバンに荷物を詰める。
白い修道服を二着。下着と靴下をその脇に入れて、それでもあまりある鞄の空白にはお気に入りの本と、両親からもらったペンダントと、それから。
ずっと手放せなかった、ユリの花を模ったアメジストの髪飾り。誰からもらったかも覚えていないけれど、大切で、手放せなかった。
もしかしたらこの聖地巡りの旅で───。
もし何かあったとしても、この髪飾りとペンダントだけは自分の手元においておきたい。
だからそっと、ハンカチで包んで、手元に持っておくのだ。
コンコン
扉がノックされる。気がつくと既にいつもの起床の時間になっていた。私はいつもどおりに声をかけ、メイドたちに身支度をしてもらう。
軽く朝食を食べ、姿見で改めて自分を見てから、荷物を手に玄関へと向かう。
ヒソヒソとすれ違う人が何かを囁いている。
それがいいものであれ悪いものであれ、私には関係ない。
言われたとおりにするだけのお人形に、他人の目を気にするような感情はないでしょう?
そのまま廊下を通り過ぎ、玄関を出たところにあった聖女専用の馬車に乗る。
御者の方に挨拶をすると、気のいい御者の方は、笑顔で挨拶を返してくれた。
だから、油断してた。
馬が嘶く。剣閃が聞こえる。
転倒した馬車と、強かに打ち付けた腕の痛みで意識が現実に引き戻される。
付き添いできていた騎士は全員が王太子殿下、つまり私の婚約者の手駒。
そして、御者と侍女たち自衛のできる、国王陛下の息のかかった者たち。
最初に動いたのは殿下の騎士たちだった。
赤い髪の騎士が突然侍女の一人に斬りかかった。
その侍女は間一髪、服の中に仕込んでいた短剣で剣を受け止めたが、それだけでは終わらなかった。
次々に騎士が侍女に斬りかかる。
いくら自衛ができるとしても、恐怖は伝播する。
三人ほどの侍女が私を囲み、それぞれの武器を構える。彼女らの肩は小刻みに震えている。
馬車の中でじっとしていると、やがて一人の侍女が押し負け、肩から斜めに斬られた。
張り詰めていた空気が一気に爆発する。
侍女たちの悲鳴が響く。中には、意識を失った者もいる。
それでもなお、私の前に立ち、歯を食いしばって耐えている彼女らは、強い人だと思う。
一人の侍女が、私の肩を抱き、大丈夫だと、必ず守ると告げる。
私はそれを、酷く他人事のように感じていた。
また一人、血を流して倒れていく。
──私を見捨てればいいのに…。
そっと、前に出る。
侍女の、焦る声が聞こえる。
でも私は、前のように、守られるだけは嫌だ。
少しでも、ほんの少しでもいい。彼女らを救うための力が欲しい。
血を流して倒れている侍女の側に跪く。
私は死んでもいいから、彼女らを助けたい。
差し伸べた手のひらから温かい光が溢れる。
その光は、怪我をした侍女たちを包み込む。
──どうか、治って……
光がおさまると、そこにいた侍女たちは全くの無傷で眠っていた。
成功した、と力を抜いた私は、周囲が敵だらけというのを失念していた。
「ユリティアさま!!」
侍女の悲鳴が聞こえ、急いで振り返る。
そこには、剣を振り下ろす赤い髪の騎士の姿がある。
私に向けて振り下ろされている剣を見て、ああ、死ぬんだな。と思った。
不思議と落ち着いていたし、怖くなかったから、自然に目を瞑った。その時、視界の端に石碑が見えた。
──ああ、あれはあの人の。
そう、懐かしく思いつつ、訪れる痛みに備える。
しかし、いつになっても痛みは来ない。
不思議に思って目を開ければ、あの騎士の姿はなく、代わりに銀色の髪の少年がいた。
肩のあたりで銀色の髪を切り揃えた、優しげな風貌の少年。
少年の、紫色の瞳を目にしたとき、思い出した。
夢で見た少年が誰だったのか。少年は何者なのか。
呆然としたまま、彼の名を呼ぶ。
「──ブラウ……」
その言葉に、優しく微笑んだブラウは、そっと私の頭を撫でる。
「久しぶり、ティア」
その優しい声音に、いつもギリギリで堪えていた涙が溢れる。
思い出した記憶が脳内を駆けずり回る。なんで、忘れていたんだろう。こんなにも大切で、大好きな彼のことを。
幼い頃からずっとそばにいてくれた。
七つになった頃から、姿を現さなくなった。
だからといって忘れてしまうほど、関係が浅かったわけではないのに。
溢れ出した涙はとめどなく頬を伝う。
「ブラウ…ブラウ…私、頑張ったんだよ。……どれだけ死にたくても、消えてしまいたいと思っても、お母さんたちが、言ってたから、生きてっていうから、生きてたんだよ。生きる理由なんてわからないのに、頑張った、生きようと頑張ったんだよ……」
彼と再会したことで、弱くなってしまった心が、本音を溢れさせる。
幼子みたいに泣きじゃくる私を、ブラウはそっと抱きしめてくれる。
「頑張ったね、ティアは偉いね」
そう言って、優しく撫でてくれる。
その優しさが心に染みて、余計に涙が止まらなくなってしまって、私はブラウの肩に額を押し付けながら、泣きじゃくる。
そんな私を壊れやすいものを触るようにして抱き上げたブラウは、周囲の侍女たちを見回す。
視界の端に映る彼女らは、こちらを見て呆然としていて、騎士は全員気絶していた。
彼女らは、騎士を倒す程に善戦できていたわけではないから、きっとブラウがやったんだろう。
ブラウは、彼女たちを見ると、眉をひそめる。
どうしたのだろう。理由もなく、こんな顔をする人ではないというのに。
「君たち、契約で縛られてるね?それもかなり強い」
そういったブラウは、手を彼女たちへ向けて、そこに白い魔法陣を展開する。
パキン
甲高い音が響く。
きっと、彼女たちを縛っていたという契約を壊したのだ。
それと同時に力が抜け、崩れ落ちた彼女たちは、自身の手のひらと、ブラウを見比べて、何かに気づき、跪く。
「精霊王、ルブラウライトさまですね。この度は我々を忌まわしき契約から解放してくださり、有り難く存じます。つきましては、これからもユリティアさまにつかえさせて頂きたく」
そう言い、深く頭を下げた侍女長に続き、他の侍女も頭を下げる。
私は何がなんだか、よくわからない。
先程契約が解除された(多分)ときから、彼女たちの頭上に雪の結晶の真ん中をくり抜いたようなわっかが浮かんでいる。
どこかで見た覚えがあるが、どこで見たのか思い出せないまま首を傾げていると、ブラウは彼女たちを下位精霊と呼んだ。
精霊。
──精霊とは
古くから自然とともにあり、滅多に姿を現さないことで有名。精霊王を頂点とし、上位精霊、中位精霊、下位精霊、そして妖精に分かれる。どの階位であっても、特殊な力を操る。
ブラウはその頂点たる精霊王。いつ代替わりしたのかは知らないが、最後にあったときはまだ次期さまと呼ばれていたはず。
それと、王城の書庫になかったため、おそらく人々には知られていないが、私の故郷…里の一族は精霊と密接に関わっていた。
子供が、精霊とともに成長しているくらいに。
私もブラウという精霊とともに育った。
ブラウいわく、あの里は精霊界と人間界をつなぐ唯一の場所だったらしい。
里が滅ぼされた時点で、その扉も封鎖されたそうだが。
だからこそ不思議だ。
なぜ、扉がない王城に精霊がたくさんいるのか。
──それは、大昔の話。
一人の精霊使いがいた。精霊使いは精霊ととても仲がよく、家族のような関係だったらしい。
しかし、それに目をつけたのが当時の王族。その頃は、王城にあった扉が封鎖されたばかりで、精霊の存在を忘れるには早く、精霊がいたときの生活をあらゆる手を使って取り戻そうとしていた。
精霊使いは、王家に契約で雁字搦めにされ、逆らうことができなくなってしまった。
それは精霊使いが家族のように思っていた精霊たちもだった。
精霊たちは、精霊使いと魂の契約をしていたため、精霊使いの魂ごと縛る契約に魂を共有するものとして、共に契約で縛られてしまったのだ。
それを悲しみ、精霊使いは精霊たちを解放するために色々と試したが、終ぞ解放へは至らず、死に至ってしまった。
「当時の精霊使いは十七歳の少年でね。心のきれいな少年だったらしい。この子たちもそれを気に入ったんだろうね。
王家は、少年に対して、不当な契約書を見せて、拒むなら精霊を殺すと脅したんだよ。家族のような精霊を死なせたくなかったから契約したけど、結局精霊ごと縛られることになっちゃったんだよね。
今はその少年は精霊界に拾われて、上位精霊になってるよ。彼、死してなお精霊を思い続けて、見守ろうとしてたからね。魂のまま漂うくらいならってことで精霊になった」
彼にあってみる?と聞いてくるブラウに、興味があると告げる。
ニコリと笑ったブラウは、侍女…精霊さんたちに、これからもティアを支えてあげてね、と言う。そしてこちらに振り返り、
「ねえティア、突然だけど、僕と結婚して?」
私の手を取りそう告げた。
突然のことに驚いたけれど、私は満面の笑みを浮かべて、はい、と答えた。
とても嬉しい。だってねブラウ。あなたは私の初恋なんだよ。
嬉しそうな笑みを浮かべるブラウと精霊さんたちと、ブラウが開いた扉をくぐる。
これからは、精霊界で暮らす。扉をくぐった先には懐かしい風景が広がっていた。
降り立った野原で、ブラウと顔を見合わせ、笑うのだった。
後で知ったけど、私のこの髪色と瞳は精霊の血を引くものの証らしい。
*
あれから十年後。
半精霊となり、寿命がなくなった私は、ブラウの隣でいつまでも微笑む。
「母様!見てください、ロックフラワーですよ、それも紫の!」
「あー!それ私が見つけたのにぃ!!」
ブラウとの子供も生まれて、毎日がとても幸せ。
幸せ過ぎて、死んでしまいそうなくらい。
こういった表現のほうがいいなどの意見がありましたら、感想欄で教えていただけると助かります。