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【7】

 クロヴィスがブランシュを伴って現れた時のどよめきは相当なものだった。


 舞台で役者が素晴らしい演技を披露した時と同じくらい、いや、それ以上の響きがホールの空気を揺らす。


 その声を聞いて、抱き上げられていようが自分の足で歩いていようが、この国の王太子の隣にいるのは注目されることなのだとブランシュは悟った。


 驚きと好奇心に満ちた人々の視線。

 そして一部の令嬢の嫉妬が混ざった関心がブランシュに寄せられる。


 緊張で、一瞬身がすくんだ。

 いつもブランシュを夢中にさせてくれていた舞台の演者たちはこんな気分だったのだろうか。


(えぇい、ここまで来たらしゃんとするのよブランシュ……! 独唱を披露する歌姫になったつもりで、堂々と歩くの……!)


 舞台に上がった役者がおどおどとした様子を見せることほど残念なものはない。

 覚悟を決めたブランシュは胸を張り、視線を上げてクロヴィスと共にホールの中央へ進んだ。


(今まで私が見てきたスターたち、闇の王、どうか私に力を貸してください……!)


 耳元で心臓がうるさいくらいに鳴り、今にも気を失いそうだ。

 それでもブランシュは自分を値踏みする目を向ける貴族たちに対して臆さずに微笑み返す。

 ほうっと感嘆の声が観衆から上がった。


 自然と開けられた人々の間を抜け、その真ん中でブランシュはクロヴィスと片手を繋いだままくるりと回転する。淡緑のドレスの裾がふわりと揺れた。


 ダンスが始まる前の挨拶の姿勢。

 その二人の動きに合わせ、楽団が優雅な旋律を奏でだす。


 柔らかなヴァイオリンの音が導入のその曲は、ブランシュも好きな愛の舞曲だ。


 クロヴィスの右手が腰に添えられ、ステップが始まる。彼のリードは巧みで考えなくても自然と足が動いた。初めて踊る相手とは思えないほど、次にクロヴィスがどう動くのかがわかる。


「ブランシュ嬢はダンスも得意なんだな」


「殿下のリードがお上手だからですわ」


「今まで君を夜会で見かけたことがない気がするのだが、どこでダンスを?」


「あ、実は、好きな劇の演目にダンスのシーンがあったので、それを真似して練習していたんです」


「……練習は誰と?」


 一瞬、クロヴィスの声が低くなり、青い瞳が鋭い光を放つ。


「えっと、兄です。時々弟も付き合わせて、家でそのシーンのダンスの再現を……」


 演劇に夢中になってその真似事をするなんて、おかしな娘だと思われてしまっただろうか。

 しかし、ブランシュの言葉を聞いてクロヴィスは瞳を細めて微笑んだ。


 その滅多に見れない王太子の甘やかな笑顔に、二人を見ていた令嬢たちから黄色い悲鳴が上がる。


「そうか。兄上と弟君と。今夜は君のご兄弟は王宮にいらしているのか?」


「弟たちはまだ社交界デビューしていないので、今夜は兄と姉と来ました」


「では後でご挨拶しないとな」


 実は、クロヴィスと共に入場した時点でブランシュは兄と姉の姿を見つけていた。


 王太子にエスコートされたブランシュ(自分の妹)の姿を見た兄と姉の反応はとても対照的で。

 真面目な兄はこぼれ落ちてしまいそうなほどその瞳を見開き、恋の話が大好きな姉は楽しそうにニコニコとしながらこちらを見ていた。


(お姉様なら殿下に挨拶されても笑顔で乗り切るでしょうけど、お兄様は卒倒するかもしれないわね……)


 もしかしたら自分より兄の方が宮廷医師のお世話になるかもしれない。


「ブランシュ嬢。俺とのダンスに集中してくれ」


「失礼しました殿下。兄と姉が見えたものですから……。でも殿下とのダンスは本当に踊りやすいです。弟になんて、何度足を踏まれたことか」


「これで、少しは君に王太子らしいところを見せられただろうか?」


「ふふ、まだそんなことをおっしゃって。殿下はとても素敵な方ですわ」


「では次の曲のお相手もお願いしても?」


「もちろんです。私たちの友情の記念に」


 こうして、ブランシュとクロヴィスは人々を魅了する見事なダンスを披露し、二人が踊り終わった後のホールは称賛の拍手で包まれた。


 王太子の妃候補の女性を探している舞踏会。

 その場で王太子が続けて同じ女性とダンスを踊る。


 それが何を意味するのか、その時のブランシュはまだ気がついていなかった。




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