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フェイクハート ドリヴン バイ ラヴ;7

ヒーローの新たな姿、"ハイブリッドフォーム"登場。


そして、恐るべき侵入者たちの正体が明らかに……?

 装甲に走るラインが赤く輝く。目の慣れたカジロは白い雷電を、ぽかんと見上げていた。


「すげえ……」


 雷電は両手を広げ、変身完了した四肢をまじまじと見やった。高密度セラミック装甲に覆われた腕甲が、街灯を反射して白く光る。


「……よし、成功だな!」


「はい。変身シークエンス、全て完了しました」


 ナイチンゲールの声が、ベルトのバックルから応えた。


「現在、エネルギー残量は10%未満です。このため省電力モード、ならびにアクティブ・チャージャーを起動しています」


「アクティブ……ええと、動きながら充電できる、ってやつか?」


「『その通り。でも、もちろん永久機関ってわけじゃないよ』」


 ヘルメットの中から、マダラの声が話しかけた。


「『闘い続けていると消費電力は増えるし、必殺技だって無限に撃てるわけじゃない。これまでより遥かに長い時間、闘えるようになったはずだけどね。ともあれ、変身完了できてホッとしたよ』」


「オペレーター、ご心配をおかけしました」


「『いや、ナイチンゲール……だっけ、気にしないで。このタイミングで変身できたことが、なにより大事だからね。それと、こっちでもオペレートするけど、雷電の戦闘サポートは基本的に、君にお願いするよ』」


「私の存在意義をくみ取っていただいたことに感謝を。よい協力体制を築くことができると期待します」


 ふたりのやり取りを聴き、雷電は拳を掌に打ち付けた。


「よし、ナイチンゲールもマダラも、話はついたな! それじゃあ、行くぞ」


「『ちょっと待ってよ、雷電』」


 歩き出そうとした雷電を、慌ててマダラが呼び止める。


「『敵集団がどんな動きをしてるか、確認して作戦を立ててからにしよう。ナイチンゲールの情報処理能力も試してみたいし』」


「了解しました。それではオペレーター、データ共有を……」


 ナイチンゲールが言いかけた声を呼び出し音が遮り、新しい通話回線が開いたことを告げた。


「『オペレーター、こちら第7地区、マギランタンと第4、第8班です』」


 魔法少女の凛とした声が、雷電スーツとカジロのインカムから、それぞれの耳に届いた。


「『はい、こちらオペレーターのマダラ。マギランタン、そちらの戦況は? 何か異変でも?』」


 応えるマダラの声も、同じようにインカムから響く。


「『まずは戦闘報告を。こちら開発中断地区は、“イレギュラーズ”の皆さんと連携がうまくいって、監視カメラに映っていた侵入者は全員、撃破することに成功しました』」


「おお、すごいじゃないか!」


 マギランタンの報告に雷電が感心していると、通話回線にもう一人の発話者が加わった。


「『乱戦状態になった俺たちごと、敵さんをチェーンハンマーで薙ぎ払うのが“連携”って言えるのか? ……とにかく第4、8班は、死傷者はいないが全員しばらく行動不能だ。いてて……』」


 ハンマーに薙ぎ払われた一人と思われる第4班の班長が、マギランタンの報告に思わず抗議の声をあげたのだった。マダラは「ハハハ……」と乾いた笑い声で相づちをうつ。


「『まあ、まあ! 尊い犠牲を払ってでも一つの地域を守り切ったのは、大したことだよ。それじゃあ、第7地区のマーキングは外しておくけど、倒した相手の身柄は……』」


「『それなのよ、マダラ!』」


 オペレーターが話を進めようとしたところで、マギランタンが割って入った。


「『えっ、何?』」


「『私たちも、倒れた敵さんをどうしたらいいかわからなかったから、とりあえず覆面を外してみたんだけど……。ちょっと待って……班長さん、ケータイ貸してもらえます?』」


「『ああ、俺はちょっと動けんから、頼むよ』」


 インカムの向こうでゴソゴソと音がした後、雷電のバイザーに廃ビル街の景色が映し出された。ガタガタと小刻みに揺れながら景色が動いていく。マギランタンが班長の端末機を使って、歩きながら撮影しているようだった。


「『マダラ、映像見えてる?』」


「『見えてるよ。随分と瓦礫が散らばってるみたいだけど、これは君が……』」


「『あー、あー! ええと! そうじゃなくて……』」


 マギランタンが撮影しながら走ると夜闇の中、街灯の光が激しく揺れるナイトビジョンモードの映像が続く。


「目が回りそうだな……」


「『ごめんね雷電。でも、もうちょっと待って。……ほら、これ!』」


 映像の揺れが収まると、路上に倒れる黒尽くめの人物が映し出された。ハンマーで殴り飛ばされたまま動かなくなったようで、両手足は不自然な方向に曲がっている。


「『うっ……手足がサイバネ・パーツだってわかってても、やっぱりインパクトあるなあ』」


「『そこも確かに、ギョッとするけど……見てほしいのは、顔よ。アップにするから……』」


 乱暴にカメラが動かされ、倒れている人物の顔がぐい、と大写しになる。

 ヘルメットが外され、覆面が脱がされて露出した顔面は、頭骸骨のような金属製の部品に覆われていた。


「うわっ、何だこれ? 覆面の下にマスクつけてんのか?」


 雷電が驚いて声をあげるが、マダラは考えに耽っている様子だった。


「『……いや、これはマスクじゃないな。画面越しにもわかるよ、眼球の動きや表情筋の動きを再現するための人工筋肉が張り巡らされている……これは、オートマトン? いやでも、オートマトンにこんな繊細なギミックは必要ない、はずだし……』」


「『マダラ、こっちのも見てくれない?』」


 撮影していた魔法少女はブツブツつぶやいているマダラに呼びかけると、画面が横に移動していった。仰向けに倒れた機械兵士の横、うつ伏せの姿勢で倒れた、もう一人の兵士が映される。


「『こっちはもうちょっと当たり所が悪くて、頭のパーツが少し欠けちゃったんだけど……』」


 やはり金属製部品に覆われた頭部が大写しになる。側頭部の“殻”が、床に落としたゆで卵のようにひび割れて穴が開いている。カメラのライトが穴の内側を照らした。


「おい、何だよそれ……」


 金属製の頭蓋骨の内側にはヒトの素肌ではなく、液体で満たされた真空パックのようなものが収められていた。

 わずかに濁った液体がライトの光を反射し、暗闇の中に浮かび上がる。パックの中には固形物が入っているようだった。


「『もしかして、それ……脳みそ?』」


「『うん、多分。でも、どういうことなのかわからなくて……』」


「『それも、サイバネだ。サイバネティクス全身義体』」


 黙っていたタチバナが口をはさんだ。


「『手足や胴体だけじゃなく、脳みそ以外の全身を機械に置き換えたんだ。再生医療で十分だから、普通は全身をサイバネ化することなんてないはずだけどな』」


「こちらでも確認いたしました。この義体は、ハーヴェスト・インダストリの製品によく似ています。けれど、細部には所々に差異が見られますが……関連企業のカタログにも一致する製品が見当たらないので、おそらく無許諾のコピー品かと」


 雷電はナイチンゲールの説明を聞きながら、近くに転がっていたサイバネ兵の上半身からヘルメットと覆面を引き剥がした。バイザーの中に表示されているものと同じ、金属製の頭骸骨が露わになる。


「こっちのも、同じだ。サイバネ義体……」


「『なるほどね。こちらの銃撃が全然効かないのは、これが原因か。全身義体の軍隊なんて、厄介な連中を送りこんできたもんだよ』」


「『そいつら、首から上下を切り離しても“死なない”んだ。頭部装甲が生命維持装置を兼ねてるからな。……逆に言えば、頭さえ潰さなけりゃ容赦なくボコボコにできるってことだ。雷電も、構わずに思い切りやれよ』」


 サイバネ兵の前にしゃがみこんでいた雷電は立ち上がると、手に持ったままだった覆面を放り捨てる。


「了解。……おやっさん、妙に詳しいんですね」


「『ハハハ、まあ、若い頃は色々無茶をしたもんだ。……いや、そんなことよりも、だ。雷電やマジカルハートの応援が入ってない地区じゃ、サイバネ兵を抑えるのは難しいんじゃないか? どうなってる、マダラ?』」


「『うん、第10地区の警備班は早々に侵入者とかち合って撤退、第6地区にもサイバネ兵が侵入してきたけど、さっき警備班と衝突して、すぐに警備班は撤退してる。マーキングには成功した、って報告が来てる。他の地区には、サイバネ兵の侵入はないみたい。担当してる警備班にはもうしばらく警備を続けてもらって、異常がなかったら戻って来てもらうよ』」


「『ふむ、それじゃあ……』」


「先ほどデータを同期し、こちらの作戦行動プランを策定しました。説明の許可を」


 タチバナが言いかけた時、ナイチンゲールが声をあげる。


「『ああ、そうだったな。オペレーターでもないのに口をはさみ過ぎた。後はマダラと、ナイチンゲールの仕事だ。頼むよ』」


「かしこまりました。現在、マーキングされたサイバネ兵はそれぞれ別の方向から人目をさけるようにして目標地点に向かっています。マスター……雷電とマジカルハートは、個別の敵集団を追跡するよりも、目標地点……カガミハラ軍警察本庁に向かわれることがよろしいかと」


「『なるほど。オレからも異存なし、だよ。雷電もマギランタンも、連戦で悪いけど、よろしく頼む』」


「『オッケー! サイバネ兵の首を切り落としてから、大急ぎで行くわ!』」


 魔法少女が明るく返すと、同行していた班長が「ひっ……!」と小さな悲鳴をあげる。


「了解だ。……行くぞ!」


 雷電もマダラに応えて指を鳴らした。重低音のドラムロールが夜の工業プラントに響き、道の向こうからヘッドライトの白い光が射す。

 装甲を纏った大型バイクが、無人運転で雷電の前に走り込んできたのだった。


「それじゃカジロさん、行ってくるよ。……ありがとう」


 雷電がバイクにまたがると、よろよろと立ち上がったカジロ班長が大きく敬礼する。


「こちらこそ、です。ご武運を!」


 カジロに敬礼を返すと雷電は一気に加速し、白い光の尾を伸ばしながら未明の暗闇に消えていった。


(続)

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